中東かわら版

№174 アメリカ:「イスラーム国」は進化している?

 3月1日付の『シャルク・アウサト』紙は、2月27日から28日にかけて、米国務省がインターポールと国内の研究機関と共催した「Mobilizing Law Enforcement Efforts to Defeat ISIS」と題する会議について、要旨以下の通り報じた。

  • アメリカは、「イスラーム国」がイラクとシリアで敗北したことを受けて適応、進化しており、ジハード組織は非中央集権化することでより広く、危険になると強調した。
  • ネイサン・セールズ米国務省テロ対策調整官の言として「我々が戦場において「イスラーム国」に対し勝利を達成したことを受け、同派は地域化している。戦いはまだ終わっておらず、新たな段階に入った。我々は軍事的な努力から、非軍事、あるいは圧力を徐々に高める局面へと移る。我々は、「イスラーム国」が徐々に非中央集権化していると考える。」
  • この会議には、90の国と組織の法執行機関の職員とテロ対策を専門とする外交官が参加した。

 この会議を主催した米国務省は2月27日、「イスラーム国」に忠誠を誓う以下の組織と個人を海外テロ組織として指定した。①西アフリカのISISとアブー・ムスアブ・バルナーウィー、②フィリピンのISISとマウテ、③バングラデシュのISIS、④ソマリアのISISとMahad Moalim、⑤チュニジアのカリフの兵士、⑥エジプトのISIS。

 

評価

 「イスラーム国」は、戦闘や広報活動において、その時々の状況に合わせて最も効果を発揮するように行動している。その目的は、メディアの注目を浴びて自派の名声を高めたり、ヒトやモノといった資源を獲得したりすることである。このため、彼らの活動にはメディア等の注目に応じた流行り廃りがあり、欧米権益や個人を狙った攻撃を訴える局面がある一方で、イラクとシリアの「イスラーム国」への移住や支援等を呼びかける局面があったりする。

 今回米国務省がテロ組織に指定した諸派についても「イスラーム国」と同じことが言え、自派の利益が「イスラーム国」に忠誠を誓う動機になっていると考えられる。

 こうした中で「イスラーム国」を「組織的な作戦 対 ローンウルフ」、「中央集権 対 非中央集権」といった対照的な枠にはめ込み、同派の進化や環境への適応を指摘することは、アル=カーイダ対策以来、長年繰り返されてきたことである。

 「イスラーム国」はイラクとシリアにおいて壊滅的な打撃を受け、戦果を獲得できていないため、広報活動の低迷は顕著になっている。そうした中でも対策の手を緩めてはならないが、情勢認識や対策が既存の枠組みに止まり続けるだけでなく、様々な可能性に備えなくては、「イスラーム国」の「進化」への対応が遅れることになるだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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