中東かわら版

№169 イラン:インドがチャーバハール港の暫定的な管理権を持つことで合意

 2月15日から17日、イランのロウハーニー大統領はインドを訪問し、モディ首相らと会談した。今次訪問に合わせて各種合意が結ばれ、17日にはイランの港湾海事局(PMO)とインドのIndia Ports Global Limited(IPGL)社との間で、イランのチャーバハール港の一部の管理に関するリース契約への署名が行われた。同契約により、チャーバハール港内のシャヒード・ベヘシュティー港(注:チャーバハール港はシャヒード・ベヘシュティー港とシャヒード・カラーンタリー港の二港からなる)の運営管理を1年半の間IPGL社が請け負うことになる。署名と同日、イラン政府とインド政府は共同声明を発出し、シャヒード・ベヘシュティー港のリースが地域の接続性を促進させるとして、歓迎すると表明した。

 インドはこれまで5億ドルの投資を行うことを表明するなど、チャーバハール港の開発に深く関与してきた。2016年5月には、イラン、インド、アフガニスタンの3カ国間でチャーバハール港を経由する物流ルートを整備することで合意しており、2017年12月にチャーバハール港の第1フェーズが開港すると、インドからアフガニスタンに向けての小麦の輸送の式典が大々的に行われた。インドのモディ首相はロウハーニー大統領との共同記者会見において、チャーバハール港の潜在性を最大限に活かすため、チャーバハール・ザーヘダーン間の鉄道網の建設を支援することを表明した。

 

評価

 インドによるチャーバハール港開発への支援は、しばしば隣国パキスタンのグワーダル港との競合という観点から説明される。パキスタンのグワーダル港は、中国の「一帯一路」構想の一部をなす中パ経済回廊の出口にあたり、中国本土からインド洋の西側に陸路で直接アクセスできるルートの要となる。こうした交通路の構築は、輸送コストの軽減だけでなく、中国によるインドの封じ込めにも用いられうるとの見方があり、インドはこれを強く警戒していると言われている。また、インドにとってはパキスタンを迂回してアフガニスタン、中央アジアへの輸送ルートを確保することも国家戦略上重要であるが、パキスタンのグワーダル港がインド洋圏における経済ハブとなることも見逃すことはできないだろう。グワーダル港の管理権を中国が押さえたように、今回インドがチャーバハール港の管理権に触手を伸ばしたことは、インド対中国・パキスタンという構図をより際立たせることになっている。

 他方で、イランはこうした対立構図がクローズアップされることを好ましく思っていないだろう。イラン・インド関係の親密さを語る際に、インドはイランの原油輸出先第2位であり、米国によるイラン制裁が強化された際にもインドはイランの主要な貿易パートナーであり続けたという点が強調される。しかし、これは中国も同様であり、イランの原油輸出先第1位はほかならぬ中国である。中国・インド間の対立にイランが巻き込まれることはイランの本意ではなく、むしろ双方から投資を受けられるようバランスをとった外交が模索されている。中国の「一帯一路」構想はイランもルートに含んでおり、トルクメニスタンからイラン北部を通過してイラク方面まで東西につなぐ交通路の建設が進められている。テヘラン・マシュハド間の高速鉄道網建設を請け負っているのも、中国の企業である。

 中国とインドの競合が過熱化していった場合、イランは苦しい立場に置かれることになるだろう。ロウハーニーのインド訪問に先立つ一週間前、モディ首相はオマーンを訪問した。オマーンでもインド洋圏の経済ハブとなることを目指しているドゥクム港の開発が進められており、中国が港に隣接する工業団地に大規模な投資を行うことが2016年に合意されている。そのドゥクム港に関し、2月11日にオマーンは、インドが同港を軍事利用することに合意した。インドでは2016年頃からチャーバハール港とドゥクム港をリンクさせる構想が取り沙汰されるようになっているが、イラン、オマーンの両国と海洋分野で協力を強化させていく方針が連続して打ち出されたことは、偶然ではないだろう。インド海軍によるドゥクム港の利用は排他的なものではなく、インドに先立ち英国も同様の協定をオマーンと結んでいるが、インド側ではこれを中国に対抗する動きとして論じている。経済的な競合が軍事的な競合に転化していく際に、投資の受け手側という立場であるイランがどれだけ中印の圧力に抗することができるか、また、両国の対立と距離を置けるかが焦点となるだろう。

 

図:チャーバハール周辺地図

出所:Google Mapより筆者作成

(研究員 村上 拓哉)

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