中東かわら版

№168 トルコ:キプロスの天然ガス開発を妨害

 2月9日、トルコ海軍の艦艇は、キプロスの南沖合約70キロの海上を航行中のイタリアのEni社の掘削船を停船させた。停船の理由は、近くでトルコ海軍が演習を行っているためだとした。同掘削船(Saipem1200)は、キプロス沖合の掘削現場(Calypso1NFWのブロック3)に向かう途中だった。11日、トルコ外務省は、キプロスが単独で天然ガス開発を進めていると非難した。トルコは、キプロスが自国の沖合で天然ガスを開発することを支持しているが、北キプロスも開発に参加することを要求している。ブロック6については、2月8日にEni社が大規模なガス田を発見したと発表していた。

 2月12日、EUはトルコに対して加盟国であるキプロスに対する威嚇を中止するよう要請した。14日、トルコ参謀本部は、キプロスの南の海域で海軍が演習を行っていると発表した。15日、キプロス大統領府は、北キプロスとの和解協議を再開する用意があるがトルコが掘削船の航行を妨害している限り、協議の再開はないと表明した。トルコ海軍に停船させられた掘削船は、現在も海上で停船したままだと報道されている。

評価

 沖合での天然ガス開発を進めるキプロス共和国は、エジプト、レバノン、イスラエルとの間で排他的経済水域の境界線について合意している。しかし、北キプロスを支援するトルコとの間での合意は成立していない。キプロスが進めている海底の天然ガス開発は、同国の南の沖合が中心である。今回有望な埋蔵量があるとされたブロック6は、キプロスの南約75キロの沖合にある。キプロス沖合で発見された天然ガスの開発については、ギリシャ、EU、イスラエルなどが協議を行っており、生産したガスをEUあるいはエジプトに送る構想が議論されている。イスラエルは、自国の排他的経済水域内であるが、キプロス付近の海域で生産する天然ガスについては、距離的に遠いイスラエルに移送するより、キプロス経由でギリシャあるいはEUに移送したほうが効率が良いためキプロスの天然ガスをEUに移送する計画に関心を示している。

 今回トルコが実力で掘削を中止する行動に出た背景ははっきりしないが、東地中海地域の海底にある天然ガス資源は、キプロス紛争、アラブ・イスラエル紛争など未解決の紛争が存在する地域にある。両紛争とも発生から長い年月を経ており、国家間での大規模な軍事衝突が再発する可能性は低いが、天然ガス資源開発を進めようとする際の大きな足かせになっている。今回のトルコの実力行使が東地中海での新たな緊張要因になるかもしれず、その動向を注視する必要がある。

(中島主席研究員 中島 勇)

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