中東かわら版

№164 イエメン:紛争をめぐる報道・言論の混乱

 イエメンの「イスラーフ党」(部族連合一部とムスリム同胞団の流れを汲むといわれる法学者などからなる政党)は、同党の党員で2011年のノーベル平和賞受賞者のタワックル・カルマーンの党員資格を停止すると発表した(2018年2月3日)。カルマーン氏は2011年に当時のサーリフ大統領に対する抗議行動で活躍した女性活動家で、最近はイエメン紛争に介入するアラブ連合軍に反対する立場から、SNSなどでサウジ、UAEを非難する書き込みを繰り返していた。「イスラーフ党」は幹部らがサウジのリヤードに移転しており、紛争においてサウジを支持する立場をとっていることから、カルマーン氏の立場は党を代表するものではないとして党員資格の凍結に至った。

 また、カルマーン氏自身も連合軍がイエメンに介入した時点(2015年3月)にはこれを支持する立場を表明していた。SNS上では、同氏を非難する立場の投稿者たちが当時の書き込みを繰り返し転載したり、カルマーン氏を中傷する風刺画を流布させたりしている。カルマーン氏もSNS上で「イスラーフ党」への反論や、イエメン紛争でサウジを支持するエジプトのシーシー大統領への非難を繰り返し投稿している。

 

評価

 カルマーン氏のアカウントは半ば炎上状態にあるが、これは個人の政治的立場やイエメン紛争に対する評価に起因するものだけではなく、イエメン紛争をめぐり、中東諸国の政府や報道機関の立場が割れていることをも反映している。国際機関や援助団体が度々深刻な事態にあると訴えているにもかかわらず、イエメンでの紛争や人道状況についての情報発信や反響が乏しいように思われる。紛争当事者が自らを正当化して相手方を貶める情報合戦を繰り広げ、アラブ諸国の大手報道機関もそうした文脈でイエメン紛争を報じていることが、イエメンの情勢について信頼できる情報の発信や、紛争や人道状況に対する国際的な取り組みを妨げる要素となりうる。

 例えば、サウジなどの連合軍がイエメン紛争に介入した段階ではカタルもこれに加わっており、同国の立場や政策を擁護するジャジーラTVも連合軍を全面的に肯定する報道をしていた。これが、2017年にサウジなどがカタルと断交し、カタルが連合軍から追放されると、ジャジーラTVも連合軍の空爆によるイエメンの民間人の被害や、紛争でのサウジ軍の損害についての報道量を増加させるようになった。紛争や連合軍に対するカルマーン氏の立場も、こうした状況に沿って変化していった模様であり、同氏に対する非難も「フーシー派(注:正式名称はアンサール・アッラー)に与している」、「(カタルやトルコと近しいと考えられている)ムスリム同胞団的だ」など様々な論拠・レッテル張りが混濁した状況にある。

(髙岡主席研究員)

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