中東かわら版

№163 エジプト:大統領選挙にシーシー大統領とガッド党党首が立候補

 大統領選挙への立候補申請が1月29日に締め切られ、シーシー大統領とムーサー・ムスタファー・ガッド党党首の2名が立候補者となった。国家選挙機構の発表によると、各候補者が提出した立候補申請に必要な推薦署名数は、シーシー大統領は議員推薦549名と有権者推薦16万1707名、ムーサー・ムスタファー党首は議員推薦20名だった。今後、国家選挙機構による立候補者の資格審査や立候補者からの異議申し立てなどが行われ、最終的な立候補者が確定した後、2月24日から選挙運動期間に入る。投票日は3月26日から28日まで(在外は3月16~18日)。

 なお、当初は複数の人物が立候補を表明していたが、以下のとおり様々な理由で立候補は取り下げられた。

  • アフマド・コンソワ大佐:2017年11月29日、現役将校のまま立候補したため逮捕され、軍事裁判所で禁固6年の判決を受けた。
  • アフマド・シャフィーク元首相:1月7日辞退「自分は国家運営に適していない」
  • ムハンマド・サダト前議員:1月15日辞退「自由で競争的な選挙にはならない」
  • サーミー・アナーン元参謀総長:現役将校のまま立候補したこと、人民に向けて軍に対する反対行動を扇動したことを理由に、1月23日逮捕。
  • ハーリド・アリー弁護士:1月23日辞退「自由で競争的な選挙にはならない」
  • サイイド・バダウィー・ワフド党党首:1月26日立候補、即日撤回。
  • ムルタダー・マンスール議員:1月27日辞退、理由不明。
  • アフマド・ファダーリー民主的平和党党首:1月28日立候補、翌日撤回。

 

評価

 シーシーが勝利した2014年の大統領選挙も立候補者は2名だったが、今回が前回と違う点は、対立候補が次々と大統領選挙の競争から消されたことである。政府に批判的な人物として知られていたシャフィーク元首相、サダト前議員、アリー弁護士は、政治的自由が制限された環境では大統領選挙においても自由で公正な競争は行われないとの理由から、立候補の辞退を決定した。シャフィーク、アリーは、自陣営の選対メンバーに対して治安関係者から選挙活動の妨害行為があったと述べている。

 特にアナーン元参謀総長の逮捕は、軍が大統領選挙の過程を支配していることを示した事例だった。アナーンは2012年8月にムルシー大統領によって参謀総長職を解任されてから目立った政治活動を行っていなかったが、サウジアラビアへのティーラーン・サナーフィール島の引き渡し合意に批判的であると報道されていた。アナーン逮捕の直後に出された軍声明では、①アナーンが退役手続きを済まさずに政治職への立候補を決定した、②立候補声明で軍に対する反対行動を人民に向けて間接的に扇動した、③立候補申請書類に退役した旨を記すという不正行為があった、という違法行為があったと述べられた。①と③は手続き的問題であるにせよ、②は軍に対する批判を許さないという軍側の意思が明確に表れている。

 ガッド党のムーサー・ムスタファー党首が唯一の対立候補となったが、ほとんど名の知られていない政治家である。立候補を表明したのは立候補申請の締切当日であり、数日前まではシーシー大統領の再選を支持していたとされる。突然の立候補表明と、数時間で議員推薦署名を集められた背景には不明瞭なことが多い。

 このような対立候補つぶしと支持基盤の大きさに明白な差のある候補者による戦いは、有権者の大統領選挙への関心を著しく低下させるだろう。シーシー支持派にとっては結果の見えている選挙に投票する誘因は低く、反対派は無名のムスタファー党首に投票したいとは考えないと思われるからである。2014年の大統領選挙の投票率は47%だった。3月の大統領選挙では、この数字と比べてどの程度の投票率となるかが国民の現体制に対する態度を示す指標となるだろう。

(金谷研究員)

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