中東かわら版

№162 イエメン:南イエメン移行評議会がアデン市を制圧

 2018年1月27日ごろから、アデン市でハーディー前大統領派と南イエメンの分離独立派と目される「南イエメン移行評議会」との戦闘が激化し、後者がアデン市や中央銀行など同市にある政府関連施設を制圧した。イエメン紛争に介入するアラブ諸国の連合軍は、アデン市を追われたハーディー前大統領派の閣僚を保護して軍事基地に移動させたほか、両派に停戦を呼びかけるとともに「南イエメン移行評議会」部隊による大統領宮殿突入を阻止した。

 31日付の『ハヤート』(サウジ資本の汎アラブ紙)は、戦闘によりハーディー前大統領派の部隊が崩壊し、「南イエメン移行評議会」の部隊がアデン市を完全に制圧したと報じている。

 

評価

 「南イエメン移行評議会」は、もともとハーディー前大統領派に参加していた勢力が、2017年5月に同派内の役職や権限の配分への不満から袂を分かったものである(中東かわら版 2017年No.29)。ただし、このような事態は南北イエメンの統一(1990年)、南北内戦(1994年)以来の政治・経済的権益配分への南イエメン側の不満に起因しており、その意味でアンサール・アッラー(=フーシー派の正式名称)による奪権運動と共通の土壌に基づいている。

 アラブ諸国の連合軍は、アデンでの戦闘がアンサール・アッラーとの戦闘に悪影響を及ぼすと考え、ハーディー前大統領派と「南イエメン移行評議会」の双方に停戦と対話を呼びかけているが、連合軍やその参加国がどのように両派を調停するかは不明である。イエメンでは、下落を続けていたイエメン・リヤールの対ドル相場が、1月にサウジがイエメン中央銀行に20億ドルの預け入れを表明したことによりいったんは持ち直していたが、今般の戦闘を受け預入表明前の1ドル500リヤール程度まで下落した。

 イエメン紛争については、サウジとイランとの代理戦争としての側面が強調されがちだが、政変後の政治的移行や権益配分が不調に終わったという内政上の事情をないがしろにしてはならない。現時点では、紛争に介入する諸外国やイエメン国内の諸当事者が、イエメンにおける政治・経済的な権益をどのように配分するのかについて現実的な構想を示しておらず、事態打開の見通しは開けていない。また、紛争の激化に伴い、伝染病の蔓延や食料不足などの人道危機も深刻化している。

(主席研究員 髙岡 豊)

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