中東かわら版

№161 アフガニスタン:「イスラーム国」がNGOを襲撃

 2018年1月24日、アフガニスタン東部のジャララバード市でイギリスのNGOであるSave the Childrenの事務所などがある街区が襲撃され、少なくとも4人が死亡した。事件について、「イスラーム国 ホラサーン州」名義の犯行声明と実行犯4人の画像が発表された。

画像:「イスラーム国 ホラサーン州」名義の声明。自爆犯1人、特攻要員4人がSave the Childrenの事務所、スウェーデンの女性教育機関、アフガンの政府機関などを襲撃し、100人以上を殺害したと主張している。

 

 

 

評価

 

 BBCによるとSave the Childrenは1976年からアフガンで活動しており、現在同国の16の県で事業を実施している。今般の攻撃を受け、Save the Childrenはアフガンでの活動を一時停止すると発表した。アフガンで政府の制圧下にある地域は国土全体の半分ほどに過ぎず、同国の治安は悪化の一途をたどっている。アフガンでの活動経験が豊富で、現地に相応の基盤があると思われる老舗のNGOといえども、このような危険な状況下で被害を免れなかった。

 

 事件については、二つの論点を挙げることができる。第一は、アフガンにおいて「イスラーム国」の勢力が拡大した結果、今般の事件が発生したのではないか、という点である。確かに、「イスラーム国」は過去数カ月の間、アフガンの主要都市において多数の犠牲者を出す自爆攻撃・特攻攻撃をかける頻度を増している模様である。イラク、シリアで敗退した構成員がアフガンに流入していると懸念されてもいる。ただし、「イスラーム国 ホラサーン州」の広報活動に、同派が広範囲を制圧して「統治」を実践しているとの主張や、外国人戦闘員が多数流入していることを示す情報はほとんど存在しない。また、アフガンにはソ連の侵攻以降多数のアラブ人戦闘員と彼らの拠点を受け入れた経緯があるが、言語などの文化的な背景が異なるアラブ、欧米出身者が同地での活動を指導し、広範囲を占拠するのは容易ではないと思われる。特に、現地の状況や文脈を無視した画一的な宗教実践を強要しがちな「イスラーム国」が、地元社会から広汎な支持を獲得するには、多大な労力・資源が必要となるだろう。

 

第二は、何故NGOが攻撃対象になるのか、という点である。注意すべき点は、「イスラーム国」をはじめとするイスラーム過激派は、NGOやその受益者・協力者とは根本的に異なる状況判断をしていることである。イスラーム過激派にとっては、外国のNGOの活動は好ましいもの、保護すべきものではなく、むしろイスラーム共同体に害悪をもたらす有害な存在である。今般の事件についても、「イスラーム国」は攻撃対象となった団体を「キリスト教の伝道活動をしていた」と決めつけた。ターリバーンについても、近年は言及する機会が減っているものの、数年前までは恒例の春季攻勢開始声明で援助団体やその協力者を攻撃対象に挙げていた。このような発想は、世界各地のイスラーム過激派諸派に共通してみられるものである。さらに、外国のNGO、特に日本を含む先進国出身の活動家を襲撃した場合は、これが世界的に報じられる可能性が高くなるため、攻撃によって名声や威信を獲得したり、社会的・政治的反響を惹起したりすることを狙う主体にとって、NGOや外国人活動家は優先順位の高い攻撃対象といえよう。

 

 

(イスラーム過激派モニター班)

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