中東かわら版

№160 米国:ペンス副大統領の中東歴訪

 1月23日、米国のペンス副大統領は、19日から開始した中東歴訪(エジプト、ヨルダン、イスラエル)を終えて帰国の途についた。同副大統領は、20日にエジプト(シーシー大統領と会談)、21日にヨルダン(アブドッラー2世国王と会談、同国北部に駐留する米軍部隊を視察)を訪問した後、米軍の軍用機でイスラエルのテルアビブ空港に到着した。翌22日、ペンス副大統領は、イスラエル国会で演説を行った。同日夜、ペンスはネタニヤフ首相と首相官邸で会食を行った。23日、同副大統領は、リブリン大統領と会談した他、ホロコースト記念館を視察し、東エルサレムの嘆きの壁を私的に訪問した。

 ペンス副大統領と会談したエジプトのシーシー大統領とヨルダンのアブドッラー2世国王は、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言したことを批判し、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家創設を支持することを伝えた。エジプトでは、ペンス副大統領に同行した米国の記者団が、一時、シーシー大統領との首脳会談取材を阻止された。ヨルダンは、アブドッラー2世国王がペンス副大統領に対して2国家構想に対する信頼の再構築を求める動画映像を公開している。アブドッラー2世国王と会談後、ペンス副大統領は、両者はエルサレムの扱いについて「合意しないことに合意した」と述べている。

 22日、イスラエル国会で演説したペンス副大統領は、トランプ大統領のエルサレム首都宣言を改めて正当化し、テルアビブの米国大使館を2019年末までには移転すると言明した。また同副大統領は、米国は、中東和平交渉の再開にコミットしていること、「双方が同意すれば」米国は2国家構想を支持すると述べた。また同副大統領は、過激派のテロに対する戦いを進めること、イランのテロ支援、核武装は許さないとし、イランが核合意を順守しない場合、イラン制裁を再開すると述べた。ペンス副大統領は、今回の歴訪では、パレスチナ人、現地のキリスト教徒、イスラエルの野党政治家とは会談しなかった。同副大統領がイスラエルを訪問した時、パレスチナ自治政府のアッバース大統領はEUを訪問していた。パレスチナ側は、23日にペンス副大統領の訪問に抗議するゼネストを実施した。

評価

 エジプトのシーシー大統領とヨルダンのアブドッラー2世国王は、ペンス副大統領の訪問を断ることもできないし、他方、エルサレム首都宣言の直後であり、大規模な歓迎行事もできない状況の中で今回の訪問に対応した。今後もトランプ政権の要人のアラブ諸国訪問では、訪問国側が対応に苦慮する状況が続くだろう。

 イスラエル国会での演説では、米国大使館の移転期限を明言したが、中東和平交渉に関する具体的な政策への言及はなかった。その一方で、ペンス副大統領は、対話を拒否するパレスチナを非難し、交渉に戻るよう求めた。PLOのエラカート事務局長は、副大統領の演説について、宗教色の濃い演説であり、過激派の伸長に資すると非難している。23日の『NYT』紙社説(Mike Pence’s Self-Serving Trip to the Holy Land)は、イスラエル国会での演説は、米国の福音派やイスラエルの強硬派が歓迎するのでトランプ大統領とペンスの再選には有益かもしれないが、中東和平を進めたいのであれば、パレスチナ人や現地のキリスト教徒に訴える必要があると論評した。イスラエルの元外交官は、今回のペンス副大統領の中東歴訪について、その目的がわからないと論評している。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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