№157 シリア:トルコ軍がアフリーンに侵攻
イドリブ県東部、アレッポ県南部で政府軍が戦果を上げる一方、トルコ軍がクルド勢力が占拠しているアフリーンに侵攻した。トルコ軍の動きは、シリア紛争の諸当事者が、シリア人民を疎外し、自国の個別の利害に基づいて振舞っている状況を象徴している。情勢の概況は以下の通り。
図:2018年1月22日時点のシリアの軍事情勢(筆者作成)
オレンジ:クルド勢力
青:「反体制派」(実質的には「シャーム解放機構」と改称した「ヌスラ戦線」や、「シャーム自由人運動」などのイスラーム過激派)
黒:「イスラーム国」
緑:シリア政府
赤:トルコ軍(「反体制派」からなる「ユーフラテスの盾」なる連合が前面に立っているが、実質的にはトルコ軍)
赤点線内:「反体制派」(主にアメリカ軍からなる各国の特殊部隊の保護を受けており、実質的にはアメリカ軍)
1.2018年1月18日ごろからトルコ軍がアフリーンを占拠するクルド勢力に対する砲撃をはじめ、20日ごろには地上部隊も侵攻した模様。トルコ軍・クルド勢力双方の戦果・損害状況は不明。なお、双方の衝突回避のためにアフリーンと周辺に進駐していたロシア軍部隊は退避した模様。
2.政府軍がイドリブ県東部、アレッポ県南部で攻勢を実施し、「シャーム解放委員会」からアブー・ズフール空軍基地を解放した。「シャーム解放機構」は「トルキスタン・イスラーム党」などからの増援を受けて対抗したが、政府軍の進撃を阻止できなかった。アブー・ズフール基地の失陥により、「反体制派」はイドリブ県東部、ハマ県北東部の占拠地域との連絡を絶たれる形勢となったが、この地域では「反体制派」からの鞍替えも含め、「イスラーム国」の占拠地域が拡大した。
3.ダイル・ザウル県のユーフラテス川左岸、ハサカ県南部で「イスラーム国」によるクルド勢力との交戦が激化した。
4.ダマスカス市東郊のハラスター周辺で政府軍と「反体制派」との戦闘が激化した。
評価
アスタナ会合で緊張緩和地域に設定されたはずのイドリブ県東部、ダマスカス市東郊での政府軍と「反体制派」との戦闘が激化したが、「反体制派」側で戦闘の当事者となっているのは、アスタナ会合はおろかシリア紛争のあらゆる政治的解決の試みを否定し、これに参加していないイスラーム過激派諸派である。「シャーム解放機構」、「シャーム自由人運動」をはじめとするイスラーム過激派、特に外国からヒト・モノ・カネなどの資源を動員する諸派への掃討は、今後も続くと思われる。
シリア・イラクの一部地域で「イスラーム国」の活動が活発化し、同派による戦果の発信も増加した。しかし、現在の「イスラーム国」の軍事・広報活動はいずれも政治的・社会的に大きな反響を呼ぶ水準には達しておらず、外部からの資源の流入を絶つ対策が維持・強化されるならば現在の敗勢を覆すことは難しいだろう。
シリアの情勢については、アメリカのティラーソン国務長官によるアメリカ軍によるシリア領占拠長期化の方針表明、トルコ軍によるアフリーン侵攻など、シリア人民の権利・生活水準の向上という課題とは本質的に無関係な諸当事国の個別の利害を優先した動きが目立っている。特に、最近のアメリカやトルコの動きは、シリア政府が実質的な政治改革や復興事業を行わない口実となることも予想される。シリア人民を疎外した諸当事国の振る舞いにより、各国が支援や救済を標榜しているはずのシリア人民が最大の被害者となるだろう。
(主席研究員 髙岡 豊)
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