中東かわら版

№156 シリア:アメリカの介入も長期化の見通し

 2018年1月16日、アメリカのティラーソン国務長官はシリア紛争とそれに伴うアメリカ軍の活動の見通しについて要旨以下の通り述べた。

*アメリカ軍は、「イスラーム国」の完全な敗北、イランの影響力との対決、アサド大統領を政権から追い出すための支援を目的にシリアに残り続けるだろう。

*アメリカは、イラクにおけるアル=カーイダがまだ生き残っていた2011年に、イラクから早期に撤退したのと同じ誤りを繰り返してはならない。

*シリア紛争の解決によって、イランが地域の制圧という目的に近づくのを許してはならない。アメリカがシリアから完全に撤退することは、アサド大統領が自国民を虐待し続けるのに役立つだろう。

*安定し、統一された、独立のシリアは、「アサド後」の指導部へと至るだろう。アサド大統領が国連の下での政治過程の枠組み下で退任することは、恒常的な平和をもたらす。

*アメリカ軍が長期間駐留し続けることは、解放が実現した地域での責任ある統治にも役立つ。アメリカは、シリア政府の制圧下の諸地域の復興に1ドルたりとも与えない。同盟国に対しても、これに倣うよう促している。

*シリア紛争から逃亡した移民・難民が参加する自由で透明な選挙は、アサド大統領とその家族が最終的に政権を去るという結果に至るだろう。

 

 これに対し、シリア外務省の公式筋は「シリアにおけるアメリカ軍の存在は違法であり、明白な国際法違反、主権に対する侵害だ。内政事項はその国の人民の専決事項であり、(ティラーソン長官は)見解の表明という形であっても内政に干渉する資格はない。アメリカ軍がシリアにいる目的は「イスラーム国」の討伐ではなく、テロ組織の保護である。アメリカのお金はシリア人民の血にまみれており、シリアは復興のために1ドルたりともアメリカのお金を必要としない。シリアは、全土からテロリズムを一掃するまでテロ組織との戦争を継続する」と反論した。

 

評価

 現在のシリア紛争の推移に鑑みると、シリアにおける「イスラーム国」対策でアメリカ軍が貢献する余地はほとんどない。「イスラーム国」対策の焦点は、イラクやシリアからの「イスラーム国」要員の帰還・拡散の防止に移っているし、この両国で「イスラーム国」が「復活」するのを阻止するためには、アメリカをはじめとする諸外国からのヒト・モノ・カネのような資源の供給を絶つ方策を強化した方がより効果的である。そうした中、ティラーソン長官はイランとの対決やアサド政権の打倒を理由にアメリカ軍の駐留が長期化するとの見通しを示したが、これまでのシリア紛争の中でアメリカの外交・軍事的な活動は「アサド政権によるシリア国民虐待防止」にほとんど効果を上げていないことから、アメリカ軍のシリア駐留の長期化が、シリア人民の権利や生活水準の向上にどの程度役立つかは定かではない。

 また、ティラーソン長官はアサド大統領を退任させるべきだと繰り返し、シリア政府の制圧下の地域の復興には一切協力しない旨表明した。ただし、アサド大統領退任への手順は、「国連の下での政治過程の進行」、「在外シリア人移民・難民も参加する自由で透明な選挙の実施」を挙げたにすぎず、アメリカがこの過程にどの程度貢献するかの構想を欠いた状態にとどまっている。このような状態は、2003年のイラク戦争、2011年以降のチュニジア、リビア、エジプト、イエメンでの政権打倒や政変の際にみられた、独裁者を打倒しさえすればバラ色の未来が約束されるかのような、極端に楽観的な見通しをも想起させる。

 現在のシリアは、イスラーム過激派対策ともシリア人民の救済とも無関係に、アメリカを含む諸外国が自らの利益を増進するための抗争の場ともいえる。

(主席研究員 髙岡 豊)

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