中東かわら版

№152 イラン:米国による対イラン制裁解除の継続と核合意修正の要求

 1月12日、米国政府は、核合意により解除していた米国独自の対イラン制裁について、再延長して継続することを発表した。声明において、トランプ大統領は、核合意がイランの体制に経済的な恩恵をもたらしているものの、その資金は武器やテロ、国内での抑圧に用いられていると主張した。また、現時点では核合意を維持するものの、「合意を修正するか」、「米国が合意から離脱するか」の二者択一の選択肢を提示し、(1)国際査察官が要求するすべての場所への即時の査察を認めること、(2)核兵器保有に二度と近づけない条件とすること、(3)これらは無期限のものであること、(4)長距離ミサイルと核兵器計画は不可分でありイランのミサイル開発と実験は制裁の対象とすると明示すること、の4つの条件が認められなければ、米国の制裁は復活させると述べた。また、今回制裁解除を継続するのは、核合意の欠陥を修正するためにヨーロッパの同盟国の合意を確保するためだけであり、二度目の制裁解除継続はないこと、また、新たな合意の達成が見込めないと判断した場合は即座に合意から撤退することを表明した。

 上記発表と同時に、米財務省は、人権侵害および弾道ミサイル開発に関わった14の個人・団体を新たに制裁リストに追加することを発表した。制裁の対象となるのは、サーデグ・ラーリージャーニー司法府長官(アリー・ラーリージャーニー国会議長の弟)も含めたイラン人3人、中国人2人、イラン企業7社、中国企業1社、マレーシア企業1社である。

 同日、イラン外務省は、イランが核合意の修正を受け入れることはないと表明するとともに、ザリーフ外相は、トランプの政策こそが核合意に違反していると主張した。

 

評価

 2017年10月にトランプ大統領がイランによる核合意の履行を不認定して以来(詳細は「イラン:トランプ米大統領がイランの核合意履行を認定せず」『中東調査会』No.105(2017年10月16日)、米国議会では対イラン制裁の復活について議論は進んでいなかったが、今回の声明により、改めて対イラン制裁復活に向けた道筋が示されたことになる。これまでトランプ大統領は核合意の「破棄」や「再交渉」を主張していたが、その具体的な方策や条件については示されてこなかった。今回、米国は具体的な条件を提示し、核合意の再交渉を提案したが、これらの条件はイランにとって受け入れ難く、交渉が再度行われる可能性はほぼないだろう。一方で、トランプにとっては、条件を示したものの交渉に応じなかったイランに対して制裁を復活させるという「正当性」を得ることができるため、これまで以上に制裁の復活を決断しやすい状況ができることになる。120日後の議会報告時に制裁復活を決定するかは不明であるが、新たな制裁法の策定などイランに対する厳しい措置がとられる可能性は高い。

(研究員 村上 拓哉)

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