№148 サウジアラビア:抗議活動を行った王族11人の拘束
- 2018湾岸・アラビア半島地域サウジアラビア
- 公開日:2018/01/09
1月4日、リヤードの統治宮殿(Qasr al-Hokm)前で抗議活動を行った11人の王族が拘束された。1月6日、サウジアラビアのメディアである『Sabq』と『Okaz』がそれぞれ報じ、同日、サウジ国営通信経由で検察からの公式発表(英語版の全文)がなされた。
報道および検察の公式発表によると、11人の王族は、王族に対する電気・水代への手当の停止に関する勅令に抗議するとともに、参加者の従兄弟にあたる王族に対して2016年に執行された死刑への補償を求めて、統治宮殿前で座り込みを行った。当局は彼らの要求が非合法であり、現場から立ち去るよう求めたもののそれを拒否したことから、彼らの身柄を拘束した。彼らはリヤード南部のハーイル刑務所に移送された。今後、裁判に付されることになる。
評価
今回の王族による抗議活動について、海外メディアでは「ムハンマド皇太子が進める改革によって特権を失うことに不満を抱く王族が抗議活動を起こした」と、王族間の政治闘争の側面があることを指摘している。こうした指摘は、王族内に改革に対する不満があるという点では正しいかもしれないが、今回の一件からどこまでそれが言えるかは疑問である。
第一に、王族が行った抗議の内容については、サウジ政府の公式発表からしか確認できていない。『Sabq』と『Okaz』は、検察の公式発表に先立って、独自の情報源に基づいて本件を報じたと書いたものの、記事の文面は検察の声明とほぼ同じであり、公式の情報源からリークを受けて記事を作成したことが明らかである。従って、抗議の内容については、政府の都合により歪曲されたり隠蔽されたりしている可能性が高く、仮に内容が事実だったとしても、それは政府にとって都合が良い情報だから報じられていると見るべきだろう。その点では、王族であろうと法の下では平等であること(これは拘束された王族が刑務所に移送されたことにわざわざ言及していることからも読み取れる)、そして秩序を混乱させる抗議活動には断固とした処置がとられることを、国民に示すことが狙いだろう。
また、今回拘束された王族は、身元が分かる限りでは、傍系王族が中心であり、2017年11月の汚職疑惑による拘束のときのような大物は含まれていない(11月の拘束詳細は「サウジアラビア:汚職により王族・現職閣僚ら数十人を拘束」『中東かわら版』No.116(2017年11月6日))。『Sabq』によると抗議活動を主導した人物はS.‘A. S. ムハンマド・ファイサル・トゥルキーという人物である。名前から推測するに、彼はおそらく第二次サウード王国のファイサル国王(在位:1834-38,1843-1865)の次男ムハンマドの曾孫にあたる人物だろう。また、2016年に死刑になった王族とは、現サウジアラビア(第三次サウード王国)のアブドゥルアジーズ初代国王の従兄弟の子サウードの子孫(サウード・カビール家と呼ばれる)のトゥルキーという傍系王族である。当時21歳だったトゥルキーは2012年にリヤード郊外での乱闘で友人を銃で殺害した罪により、死刑判決を受けた。トゥルキーの従兄弟という抗議活動参加者も、同じサウード・カビール家の者だろう。第三次サウード王国が建国された当時は、アブドゥルアジーズ初代国王の親戚らも強い影響力を持っていたが、時代が下るにつれ、王族内の権力はアブドゥルアジーズの子孫に集中するようになってきた。11人の王族の身元が完全に判明したわけではないが、今回拘束された王族の中に強い権力を持つ人物が含まれている可能性は低く、これを王族間の政治闘争と見ることは難しい。
第三に、抗議活動が起きた場所と規模の不可解さである。統治宮殿は、リヤード州知事用の宮殿であり、リヤード州庁舎の真横に位置している。勅令への不満や死刑判決への補償を求めるのであれば、サルマーン国王やムハンマド皇太子の宮殿に赴くのが筋であろう。また、11人という少人数で突如として抗議活動を行ったのも不自然である。真偽は不明なるも、SNSで流れている関係者の情報リークによる噂によると、11人の王族は当初、汚職に関与した王族への法的な対処を求めて、リヤード州知事のファイサル・バンダルのもとに訪れたとのことである。しかし、ファイサル・バンダルが面会を拒み、ムハンマド皇太子に本件を連絡したため、彼らの拘束につながったそうだ。これが事実であるかは不明であるものの、抗議活動がなぜ統治宮殿前で起きたか、そしてなぜ現場に11人しかいなかったのかは、これで説明することができる。また、要求内容の中に2016年の死刑判決に関連するものがあることに鑑みると、彼らの主張は11月に拘束された汚職疑惑の王族にも、2016年同様、法的に厳正な処分を下すよう求めたか、あるいは2016年の死刑判決に対して何らかの政治的・経済的配慮を要求した可能性は高いように思われる。
いずれにせよ、本件は、サウジの王族政治において影響はほとんどないだろう。11月の王族拘束と異なり、今回の拘束について政府から迅速に情報が発信されていることもそれを裏打ちしている。他方で、こうした傍系王族の間に不満が溜まっているのが事実だとすれば、体制転換を企図する国内外の勢力に利用される可能性もあるだろう。
図:関係王族の系図(一部推測)
(研究員 村上 拓哉)
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