中東かわら版

№146 イラン:反政府抗議活動の発生

 イランの全国各地で反政府抗議活動が発生している。12月28日、イラン第二の都市でシーア派の聖地であるマシュハドや、ニーシャープール、ヤズド、シャーフルード、カーシュマルなど複数の町で数百人規模の抗議活動が発生した。抗議活動では、物価高や失業について批判する声が上がり、そのなかで「ロウハーニー(大統領)に死を」、「独裁者に死を」といった指導者を批判するスローガンも用いられた模様である。当局の発表によるとマシュハドでは52人が拘束された。

 翌29日には、ラシュト、ケルマーンシャー、エスファハーン、ハマダーンなどでも数十人から数百人規模の抗議活動が発生した。テヘランの治安当局は、テヘラン市内でも50人が中心部の広場で行進を行ったため、そのうちの一部を拘束したことを発表している。

 米国務省はこれに関し、イランの「平和的な抗議活動参加者の拘束を強く非難する」、「イランの人々と彼らの基本的人権と汚職の撲滅の要求を公けに支持することを全ての国に求める」との声明を29日に発出した。また、同声明では、「ティラーソン国務長官が2017年6月14日に議会で『政府の平和的な転換を導くイラン国内の勢力』を支持すると証言した」ことにも言及している。

 

評価

 イラン国内でこれだけの規模の抗議活動が発生したのは、大統領選挙の不正を巡る2009年の「緑の運動」以来のことであろう。もっとも、規模の点でいえば、数万から10万人以上の抗議者がテヘランに集った2009年の事例と比較すると、今回の抗議活動は現時点ではまだ小規模なものに収まっていると言える。また、数十名の死者が発生した2009年に比べると、今回は死者の発生は報じられていない。今後、抗議者側に死者が発生するようなことがあれば、運動が更に拡散し、盛り上がっていくことになるだろう。

 しかし、2009年の抗議活動は、大統領選直後の政治的熱狂が運動の拡散に強く影響し、選挙に不正があったと考える改革派勢力がこれを組織したことを考えると、今回の抗議活動には明確なきっかけがなく、デモを組織したり支持したりする勢力も表立って出てきていない。改革派の一部は、抗議活動の発端がロウハーニーの経済政策批判だったことから保守強硬派による動員を疑っており、デモの組織的な背景は依然として不明である。当局が過剰に暴力的な手段を用いなければ、抗議活動はこのまま鎮静化していくだろう。

 他方、オバマ政権との違いを強調するトランプ政権は、前政権が緑の運動に距離を取って厳しい批判も行わなかったことを理由として、今回の抗議活動に深く介入することを望むかもしれない。米国が情勢に直接介入し「平和的な政府の転換」なるものを画策する可能性は乏しいが、外交の場で何らかの措置を講じてくる可能性は否定できないだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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