中東かわら版

№142 イスラエル・パレスチナ:米国のエルサレム首都宣言後の動き(2)

 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都だと宣言したことに対する抗議行動がパレスチナ、中東諸国、その他イスラーム諸国で継続している。西岸・ガザでの抗議運動は、6日から開始されたが、今のところ、8日金曜日の抗議行動が最も激しかった。ガザでは抗議デモに参加した若者2人が死亡、15人が負傷している。西岸での死者はいないが約300人が負傷した。ガザからイスラエル南部へのロケット弾攻撃は、7日、8日、11日に断続的に発生している。毎回数発のロケット弾攻撃があり、イスラエル軍がハマースの施設を報復攻撃している。イスラエル側に人的被害はないが、9日のイスラエル軍の攻撃でハマースの戦闘員2人が死亡した。またイスラエル軍は、9日夜にガザ・イスラエル境界地帯でハマースの地下トンネルを破壊したと発表している。

 政治的な動きでは、9日夜、カイロでアラブ連盟緊急外相会議が開催され、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことについて、法的効力はなく、暴力や混乱を引き起こしかねないとし、認定の撤回を求める決議を採択した。パレスチナ自治政府(PA)のアッバース大統領は、7日にアンマンでアブドッラー2世国王と、11日にはエジプトのシーシー大統領と会談している。アッバース大統領は、13日にトルコで開始されるOIC会合に参加する予定である。アッバース大統領が米国のペンス副大統領との会談を拒否したのに続き、8日には、エジプトのアズハル機構総長、コプト教会の教皇が20日に予定されていたペンス副大統領との会談をキャンセルした。米国側は、パレスチナ側が対話の機会に背を向けようとしていると逆に批判している。7日エラカートPLO事務局長は米『NYT』紙との会見で、PLOに残された選択肢は1国家解決案しかなく、パレスチナ人はイスラエル人と同等の権利獲得を目指すと発言している。報道では、パレスチナ側は、ファタハ、PLO内での対応策の協議を開始する。

 他方、10日、フランスのマカロン大統領がパリでネタニヤフ首相と会談し、トランプ大統領によるエルサレムのイスラエル首都認定について、国際法に反し、認められないとの立場を改めて表明した。11日朝には、EU外相らがネタニヤフ首相と非公式に朝食会でエルサレム問題を協議した。ネタニヤフ首相は、EUもトランプ大統領の決定に続くべきだと主張したが、EU側は、トランプ大統領の首都宣言に反対の立場を表明した。一時、チェコやハンガリーが米国に追従すると報道されたが、その後、米国の決定に距離を置く立場を表明している。EU諸国は、8日に開催された国連安保理での協議でも、今回の米国の決定を厳しく批判している。

評価

 西岸での衝突では、まだ死者が出ていない。イスラエル軍は、8日に東エルサレムの聖地内で行われた集団礼拝について、特段の規制をしていない。イスラエル軍は、西岸ではかなり慎重に対応しているのかもしれな。他方、ガザではすでに4人が死亡している。イスラエル側の基準では、西岸と異なり、ガザは外国であり、イスラエル軍の責任下にはない地域と見なされている。今後、イスラエル軍の対応が、ガザと西岸では相当異なる可能性が高い。

 米国側の報道によれば、今回のトランプ大統領の行動は、大統領選挙での公約実行が主たる目的であり、外交的な戦略・配慮はなかったようだ。トランプ大統領自身も、ツイッターで、前の歴代3人の大統領と違い、自分は選挙公約を実行する人物であることを強調している。今回のトランプ大統領の決定に支持を表明した国は、今のところイスラエルだけである。他方、国ではないが、EU各国に存在する反イスラーム的立場を取る極右政党が、トランプ大統領の決定を支持していると報道されている。ホワイトハウスやヘイリー米国連大使らは、今回のトランプ大統領決定は中東和平の促進に資すると強弁しているが、国際社会、アラブ、イスラーム諸国からの理解はない。トランプ政権と国際社会との間には、共通の現実認識を持った上での意見の対立ではなく、世界観の違いから生まれる現実認識の乖離が拡大し顕著化している。パレスチナ側、アラブ諸国からの反応は、今のところ、予想より穏便である。10日、ヘイリー国連大使は、大変なことが起きると言われていたが、何も起きていないと発言している。今のところ、同大使の指摘は正しいが、もうすこし状況を見守る必要があるだろう。

 米国が要請したこともあってイスラエル右派・極右は静観の構えである。イスラエルの右派・極右が、米国や国際社会に追認・承認して欲しい「現実」は、イスラエルの首都をエルサレムと認定すること以外にもある。東エルサレムや西岸にある入植地の合法化や東エルサレムの聖地の「現状の変更」の承認である。今後、イスラエル右派・極右が、トランプ大統領の後ろ盾を得たとして、勢いづいて過激な行動に出るかもしれない。国際社会やアラブ世界、イスラーム世界の動きだけでなく、イスラエル国内の極右・右派勢力の動きを注視する必要があるだろう。

 

(中島主席研究員)

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