中東かわら版

№140 日本:河野外相による中東訪問

 12月9日から10日、河野外相はバハレーンとUAEを訪問した。河野外相による中東諸国歴訪は9月に続き2回目。また、日本の外相がバハレーンを訪問するのは史上初となる。

 河野外相は、バハレーンにおいて英国の国際戦略問題研究所(IISS)が主催するマナーマ・ダイアローグに出席し、日本による中東地域の平和と安定に向けた日本の政策・貢献について演説した。演説では、9月にエジプトで開催された第1回日アラブ政治対話で表明された「河野四箇条」(①知的・人的貢献、②「人」への投資、③息の長い取組、④政治的取組の強化)に基づき、中東地域の安定化に向けて積極的な役割を日本が果たすこと、「平和と繁栄の回廊」構想など日本ならではの中東貢献策を進めていくこと、中東を含むインド太平洋にて自由で開かれた海洋秩序を確保していくことなどが訴えられた。

 

評価

 日本の中東外交は「対米追随」、あるいは資源外交に偏重しているとしばしば指摘されてきた。こうした指摘は冷戦期や1970年代の石油危機後の時期においては一定の説明力を有するが、過去20年間の日本外交の実態に照らし合わせたときにどこまで適切な表現かは大いに検討する余地があるだろう。いずれにせよ、河野外相による中東政策は、このようなかつての日本外交のイメージを大きく転換するものとなっている。

 今回の訪問先のUAEでも2018年に期限を迎える海上油田権益の延長について協議されたように、日本にとって中東がエネルギー資源の安定確保にとって死活的に重要な地であるという状況に変わりはない。他方で、9月の日アラブ政治対話が政治に関する対話であり、今回の12月のマナーマ・ダイアローグが安全保障問題について協議する場であることが端的に表しているように、ここでは従来の二国間経済関係の構築を超えて日本が中東の政治・安全保障問題に幅広く関与していくことで、中東における日本の国益を積極的に確保していこうとする姿勢が示されている。

 特に、かねてより日本が提唱してきた「自由で開かれたインド・太平洋戦略」に沿って、中東地域がアジアとアフリカ、インド洋と太平洋の結節点として重要性があると新たに指摘されたことは、日本の中東外交が大きな外交戦略の中でどのような位置づけにあるかが明確にされたと言うことができよう。資源外交の文脈では、原油の輸入ルートであるシーレーンという「線」が意識され、そのチョークポイントとなるホルムズ海峡の封鎖が集団的自衛権行使の容認にあたる事例となるかといった議論が盛り上がったこともあるが(詳細は「日本・ペルシャ湾::集団的自衛権行使の具体例としてホルムズ海峡での機雷掃海に言及」『中東かわら版』No.249(2015年2月17日)、インド太平洋の海洋秩序という視点はより広範な「面」の在り方に関する議論である。

 日本の取り組みが、中東諸国にどの程度受け入れられるかは未知数である。これまで各国と良好な関係を維持してきた日本が政治面でもイニシアティブを発揮することに正面から反対する主体はないだろうが、軍事力の行使に制限を持つ日本が中東の秩序にどこまで責任を持つつもりがあるのか、疑念を持って見る国は少なくないだろう。これまでに何度も見られたように、日本からの経済支援を受けるだけ受けて、具体的な秩序形成の段になって日本からの要望に真剣に対処しないという事態が繰り返されるのであれば、こうした新たな取り組みも徒労に終わるだろう。また、中東諸国への支援については、「一帯一路」構想を抱く中国が大規模な投資協力や経済進出を進めていることもあり、こうした動きに日本が埋没しないことにも注意が必要だ。

 こうした中、河野外相は8月の就任以来、中東諸国の歴訪や二者間の会談を積み重ねてきている(下図参照)。歴代の外相と比較すると、かなり早い段階で多くの中東諸国の要人との会談が行われていることになるが、トップ・ダウンで物事が進む中東諸国においては大きな効果を発揮することになるだろう。今後、「顔の見えない外交」と言われてきた日本外交が、中東に深く関与するというリスクを取ることができるのか、様々な局面で試されていくことになろう。

 

図:河野外相による中東諸国の訪問・会談の実施(2017年8月~12月)

注:濃い緑は訪問国、薄い緑は第三国での二者会談の実施国ないし来訪国

出所:筆者作成

(研究員 村上 拓哉)

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