中東かわら版

№135 米国:トランプ大統領のエルサレムに関する演説

 12月5日、ホワイトハウスは、トランプ大統領が中東の首脳らに電話をしてエルサレムに関して「想定される決定事項」について話し合ったと発表した。サンダース大統領報道官はトランプ大統領が6日に中東政策について演説し、在イスラエル米国大使館移転に関する判断を発表するとしている。トランプ大統領が電話で協議したのは、パレスチナ、ヨルダン、エジプト、サウジアラビア、イスラエルの首脳らで、報道によれば、サウジのサルマーン国王は「危険な措置であり世界中のイスラム教徒の感情を刺激する」と指摘し、ヨルダンのアブドッラー2世国王は「米政権による和平交渉再開の努力を損なう」と懸念を示した。エジプトのシーシー大統領は、中東情勢をこれ以上複雑にする必要はないとトランプ大統領に伝えた。

 パレスチナ自治政府の大統領報道官は、トランプ大統領が、アッバース大統領と電話で会談し、テルアビブにある米大使館をエルサレムに移したいとの意向について説明し、アッバース大統領は、危険な結果を招くと警告したと述べた。アッバース大統領は、同電話会談の後、ヨルダンのアブドッラー2世国王、モロッコのムハンマド国王、ロシアのプーチン大統領、バチカンのローマ法王などに電話をしてる。

 前日の12月4日は、テルアビブにある米国大使館をエルサレム移転するとした法律の実施を半年間先送りする文書に大統領が署名する期日だったが、トランプ大統領は署名をしていない。米国の報道では11月27日にホワイトハウスで開催された会合で、テルアビブの米国大使館のエルサレム移転を、半年先送りすることが議題となった際、同会議に参加した政権幹部らは、大統領が移転先送りに署名すると考えていたが、トランプ大統領は、移転延期に不満を表明したとされている。12月3日、クシュナー上級顧問は、ワシントンで開催されたブルックリン研究所のサバーン・センターの会合に出席し、公の場で初めて中東政策について発言したたが、大統領はさまざまな事実を検討しているとし、決定は大統領が自分で発表すると述べている。またホワイトハウスのマクマスター補佐官は、同日の『Foxnews』との会見で、エルサレムの首都宣言あるいはエルサレムへの大使館移転について、大統領には選択肢を提示してあるとし、大統領が何を決めるかは知らないと述べている。

評価

 12月6日にトランプ大統領が行う演説の内容を確認する必要があるが、米国の報道では、トランプ大統領は、テルアビブにある米国大使館をエルサレムにすぐには移転しないが、エルサレムがイスラエルの首都であると宣言する可能性があるようだ。しかし、米国大使館のエルサレム移転決定と、エルサレムはイスラエルの首都であると宣言することの意味は同じである。今回のエルサレムに関する政策変更は、米国の他の対中東政策と矛盾するかもしれない。しかし、トランプ大統領は、大統領選挙での選挙公約を実現するためにエルサレムに関する政策を変更するようだ。そうであればこれは外交政策ではなく、内政問題あるいは大統領の再選のための選挙運動である。トランプ大統領が、パレスチナを含むアラブ諸国、イスラーム諸国からの自制要求を無視して、エルサレムに対する政策を変更するのであれば、アラブ世界における米国への信頼や米国の威信は確実に低下するだろう。また今回の政策変更について、米国内のキリスト教右派や在米ユダヤ人右派が評価することで、トランプ大統領の再選には貢献するかもしれない。だが中東地域で活動する米軍兵士や外交官あるいは大使館や米国企業への攻撃など、米国の国益を損なう決定になる可能性もある。さらに中東の反米勢力やトランプ大統領が引き続き戦うはずのイスラーム過激派には、対米攻撃のための格好の宣伝材料を提供することになるだろう。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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