中東かわら版

№132 イエメン:フーシー派とサーリフ元大統領派が決裂

 かねてから不仲が高じていたフーシー派とサーリフ元大統領派(中東かわら版2017年90号)が決裂し、12月1日ごろからサナア市などで双方の戦闘が激化した。サーリフ元大統領派が、サナア空港、国防省、中央銀行、国営通信社やテレビ局を制圧する一方、フーシー派はサーリフ元大統領派のネットサイトや系列の報道機関などを停止させた。なお、サーリフ元大統領派を支持する諸部族も、同元大統領派に加勢して戦闘に加わっている。

 2日には、サーリフ元大統領と同元大統領の与党である国民全体会議党(GPC)が各々フーシー派に対する蜂起を宣言した。特に、サーリフ元大統領はサウジが率いる連合軍に対し、イエメンに対する攻撃と封鎖をやめるよう呼びかけつつ、双方の関係で「新たなページを開く」と表明した。

 

評価

 連合軍に参加した諸国やその報道機関は、サーリフ元大統領派によるフーシー派への決起を「脱イラン、アラブへの回帰」と認識して歓迎している。その一方で、もともとフーシー派とサーリフ元大統領派との連携と対立は、2011年以来のイエメン政情の混乱の中での政治・経済的な権益争いを原因としたものである。そして、ハーディー前大統領派、各地の部族、南イエメンの独立運動などの紛争の諸当事者の動向についても、国際的な影響力争いや宗派紛争という外見上の勢力分布だけでなく、紛争当事者の各々が持つ、或いは獲得を目指す権益が何かを見据えて判断しなくてはならない。

 サーリフ元大統領の発言は、今般の衝突が一時的な相違ではなく全面的な決裂であることを示唆しているが、そうなると今後サウジなどがサーリフ元大統領派をどのように処遇するかが焦点となる。2012年にGCC提案に基づく政権移行過程が始まったことでイエメンの政情は安定に向かうことが期待されたが、この過程でフーシー派への敵視とサーリフ元大統領派の排除の度が過ぎたことが、両派の提携、政治過程の崩壊、イエメン紛争を招いた。紛争の行方は依然として展望が立てにくいが、イエメン国内の諸勢力を広汎に包摂する将来像(=権益配分のあり方)を提示することが、紛争収束のカギとなろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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