中東かわら版

№131 シリア:シリア・ポンドが急上昇

 2017年11月半ばから、シリア・ポンド(SP)の為替相場が急上昇した。11月30日付『ハヤート』(サウジ資本の汎アラブ紙)によると、闇市場での対ドル相場が59SP上昇し、1ドルおよそ400SPほどになっている。これに対し、シリア中央銀行が発表する公定価格は、1ドル434SPである。報道によると、SPの急上昇がシリア国内の物価に反映されないならば、市場や経済全体の停滞が懸念される。

 シリア当局はSP相場の急上昇を受け分析と対応の会合を開催した。会議では、SP急上昇の原因を、(1)(避難民などの)在外のシリア人の機関が増加していることから、それに伴い貯蓄や資金もともに還流している。(2)輸出が改善している。(3)在外のシリア人から国内のシリア人への送金が増加している。(4)市場で両替されるドルの量が増加してる。と分析した。

 

評価

 SPは、紛争勃発前は1ドル50SPだったが、これが紛争の長期化と、生産設備・社会資本の破壊、人的被害の増加などに伴い急落した。例えば、2013年のダマスカス近郊での化学兵器使用騒動の際には1ドル300SP、2017年のアメリカによるシリア軍基地への攻撃の際には1ドル600SP近くを記録していた。そして、SPの価値の低下は、国内の物価やシリア人民の生活に深刻な影響を与えていた。

 シリア紛争や「イスラーム国」対策の見通しが以前よりははっきりしたことにより、シリア国外に避難・逃亡した者の中には帰還やシリア国内での生活・事業の再建を考える者も出つつある模様である。また、シリア国内の経済状況は依然として悲劇的ではあるが、政府優位で紛争が推移していることにより、政府軍の制圧地域での所得の改善もすでに観察されていた。今後も、「反体制派」を支援する諸国が自ら莫大な資源を投じてシリア政府を打倒しようとしない限り、こうした傾向が続く可能性が高い。一方、欧米諸国からの資本の投下なしでシリア国内の産業の復興が順調に進むとも思われないことから、シリア人民の生活の改善に資する方向でSP相場の安定が実現するかについても楽観はできないだろう。

シリア人の所得については、下記の調査結果を参照。

 

「中東世論調査(シリア2016年)」

「中東世論調査(シリア2017年)」

(主席研究員 髙岡 豊)

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