中東かわら版

№128 イスラーム過激派:アズハルは「イスラーム国」に不信仰宣告しない

 2017年11月27日付『ハヤート』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)はエジプトのローダ・モスク襲撃事件について、アズハル(注:カイロにあるスンナ派イスラームの学術・教導機関)の反応を要旨以下の通り報じた。

  • アズハルはローダ・モスク襲撃犯に不信仰宣告することを拒んだ。これについて、アズハル大学シャリーア・法学部のアブドゥルハリーム・マンスール学部長は、アズハルが「イスラーム国のような組織に不信仰宣告したところで、「イスラーム国」に対する戦いに決着をつけることにはならないだろうとの見通しを表明した。同学部長は、「イスラーム国」はアズハルやその他あらゆる公的な宗教機関を不信仰の逸脱者とみなしており、自派の司令官らの法的見解や考えに依拠していると指摘した。
  • マンスール学部長は、「イスラーム国」に不信仰宣告する法的意見を発表しても、同派やその支持者には影響を与えないだろうと述べた。なぜなら、「イスラーム国」は構成員に公的宗教機関を疑い、自派の指揮官らを絶対的に信じるようにとの方針をとっているからだ。
  • また、マンスール学部長は、アズハルが「イスラーム国」に不信仰宣告する法的見解を発表することは、アズハルを不信仰宣告合戦の泥沼に引き込むことに成功した「イスラーム国」の勝利を意味するだろうと述べた。同学部長によると、不信仰宣告に対する考え方は二種類あり、アズハルはいかなる大罪を犯したとしても個人に不信仰宣告するのではなく、その行為を不信仰行為と論評するにとどめている。一方、過激派諸派は自派に従わないという理由だけで人々に不信仰宣告をする。ただし、マンスール学部長は、アズハルが「イスラーム国」に不信仰宣告しないことは、同機構が「イスラーム国」を容認したことを意味しないと述べ、報道機関には不信仰宣告するか否かという些事に拘泥するのではなく、ローダ・モスク襲撃事件の全容を解明し「イスラーム国」の不正や堕落の全貌を解明するよう呼びかけると述べた。
  • アズハルのアッバース・シューマーン次長は衛星放送局からの取材に対し、アズハルが誰かに不信仰宣告すれば、(不信仰宣告合戦が続くという)閉じることのできない門を開くとの理由で「イスラーム国」に不信仰宣告することを拒否した。その一方で、同次長がローダ・モスク襲撃犯がムスリムたることはできないと述べたことに対し、コメンテーターらから同次長やアズハルへの非難の声が上がった。

 

評価

 ローダ・モスク襲撃事件に対するアズハルの反応は、ムスリムの共同体が「イスラーム国」などのイスラーム過激派を宗教的な論理を基に排斥することが極めて困難であることを象徴している。まず、ムスリムの共同体、特にスンナ派の間には、教義の解釈や信仰の実践について一元的に判断を下し、それに反する解釈や実践を排除する主体が存在しない。アズハルがイスラーム過激派の特定の個人や団体に不信仰宣告したとしても、同調しない機関や法学者が多数出ることが予想され、期待される成果を上げることはできないだろう。また、アズハル自身が自覚している通り、教導分野で権威や実績のある機関が他者に対する不信仰宣告を行うことは、自らに従わない者や些細な違反行為を安易に不信仰と決めつけ、殺害・弾圧するイスラーム過激派と同等の知的水準に堕することを意味する。そのような行為は、アズハルやムスリムの為政者が標榜する「穏健な」イスラームに最も反する行為であろう。

 これに加えて、アズハルがエジプトの政府機関であり、イスラーム過激派やその支持者から見れば敵対者である為政者の手先に過ぎない点も重要である。エジプト以外の諸国にも、各々の国の公的機関としての教導機関が存在するが、現在の為政者に敵対する者ははじめからそのような機関が唱道する解釈や実践には耳を貸さないだろう。アズハルをはじめとする各国の公式のイスラーム教導機関は、イスラーム過激派や彼らの政治行動の様式であるテロリズムへの支持・参加が広がったことへの責任を自省すべき局面にあるといえるだろう。

 イスラーム過激派やその支持者に対し、イスラームの教理や倫理の面から批判したり、「誤り」を正す努力をしたりすることは重要な営みではある。しかし、今般のできごとが示す通り、そのような営みは長い時間と膨大な労力を要することである。イスラームの教理教学上の営為や論争に拘泥するあまり、具体的なテロリストやテロ行為に対する取り組みが疎かになることは避けねばならないだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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