中東かわら版

№125 エジプト:武装勢力が北シナイのモスクを攻撃、305人死亡

 11月24日、北シナイ県アリーシュ市の西部、ビイル・アブド地区のローダ・モスクを武装勢力が攻撃し、モスク内で金曜礼拝を行っていた305人が死亡、127人が負傷した。エジプトで起きたテロ事件のなかでは、死傷者数は最大である。

 目撃者情報にもとづく報道では、爆発のあと、武装勢力が礼拝していた人々に対して発砲したようである。また25日に検事総長が発表した事件の概要によれば、モスクで金曜礼拝が行われている最中に、「イスラーム国」の旗を持った25~30人のタクフィール主義者がモスクの門や窓に陣取り、人々に対して機関銃を発砲した。また武装勢力は5台の四輪駆動車で現場に乗りつけたという。

 27日現在まで、いかなる組織からも犯行声明は出されていない。他方、エジプト国内で活動するイスラーム過激派の「イスラームの兵士」、「アンサール・イスラーム」、「ハサム運動」はそれぞれ、事件への関与を否定し、事件を非難する声明を出した。

 

評価

 ローダ・モスクは、イスラームのスーフィー教団(神秘主義集団)が活動している場所と言われている。スーフィー集団は修行を通じてアッラーとの一体感を求める人々を意味し、集団の指導者をアッラーに近い人物として神聖化する傾向がある。「イスラーム国」はかねてより、スーフィー集団はイスラームの原則であるアッラーの唯一性(タウヒード)から逸脱した多神教徒であると非難し、ジハードにおける攻撃対象としてきた。また、ローダ・モスクが位置するアリーシュ市、さらにはビイル・アブド地区は、「イスラーム国シナイ州」が度々軍事作戦を行ってきた場所でもある。したがって、犯行声明は出されていないものの、今回の攻撃に「シナイ州」が関与している可能性は高い。シナイ半島の武装組織のなかで、このような組織的作戦を実行できる人的資源・ロジスティック能力を有する組織は「シナイ州」以外に存在しない。

 そうすると、なぜ犯行声明が出されないのかという疑問は残る。通常であれば、事件発生から間もない時間に「アアマーク通信」による短信や公式の声明文が発表される。「シナイ州」の広報部門、または「イスラーム国」本体の広報部門に何らかの問題が生じていることも考えられるが、実態は不明と言わざるをえない。

 また、エジプトにおいてモスクやコプト教会は観光場所となっているが、イスラーム過激派の攻撃対象となりうることを注意喚起しておきたい。2016年末以来、コプト教会は数度の攻撃を受けており、モスクについても今回の事件が象徴するように場合によっては攻撃対象になりうる。

(イスラーム過激派モニター班)

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