中東かわら版

№123 パレスチナ:ガザのラファ境界事務所再開

 11月19日、エジプトは、ガザとの国境にあるラファ境界事務所を再開した。今回の国境開放は3日間の予定である。同国境にあるパレスチナ側の境界事務所の管轄は、11月1日にハマースからパレスチナ自治政府(PA)側に移譲された。PAが管轄する形でラファ境界事務所が再開されたのは、2007年にハマースがガザ統治を開始した後では初めてである。

 エジプトはラファ境界を11月15日から恒久的に開放すると報道されていた。しかし、エジプト国内及びシナイ半島の治安状況を考慮して、同境界の継続的な再開は延期された。またパレスチナ側でも、国境管理のための態勢はまだ整っていない。11月7日、PAは、ラファ境界事務所を警備する治安部隊がまだ境界事務所に配備されていないこと、さらにガザ全体の治安の統括についてハマースとの合意が成立しておらず、ラファ境界事務所はまだPAが管理できる状態になっていないと発表している。こうした問題は、21日からカイロで開催されるパレスチナの政治組織等が参加する会合で協議される予定である。

 ハマースは、エジプトとの国境管理をエジプトとパレスチナだけで行いたいと希望していると報道されているが、PAはイスラエルとの2005年合意に基づき、EUの係員(Border Assistance Mission:EUBAM)が国境管理業務を支援する形での境界事務所の再開を目指している。EUは、係員を再派遣する意向を表明しており、すでに現地調査と当事者(イスラエル、エジプト、PA)との協議を開始しているが、まだ係員の派遣は行っていない。

評価

 11月1日、ラファ境界事務所の管轄権は、ハマースからパレスチナ自治政府に移譲された。しかし、これは形式的な移譲にすぎず、PAが実際に国境管理を掌握する態勢はまだ整備されていない。PAがエジプトとの国境を管理するためには、PA治安部隊を国境に配置し、PAがガザ全体の治安を管轄する必要がある。ハマースは、国境の事務所はPA側に早々と引き渡したが、肝心のガザ内の治安維持の権限については、軍事部門の存続問題もあり、まだPA側に移譲していない。

 またパレスチナ自治政府がガザの国境管理を行うためにはEUの支援が不可欠である。パレスチナ自治政府は、主権国家ではない。そのためPA単独では、国境を管理できない。EUが国境管理業務を支援することで、準国家による国境管理の体裁が整う。またイスラエルは、PAが単独で国境を管理した場合、イスラエルがテロリストと見なす人物や武器が自由に出入りするのではないかとの不信感を持っている。EUの係員が国境で監視を行うことで、イスラエル側の懸念は弱まる。

 ファタハとハマースの政治対話では、セレモニー的な動きはあるが、まだ実質的な進展はない。その証左は、PAによるガザに対する財政的な締め付けが継続していることである。11月8日、PAは今年2月から停止していたガザへの医薬品移送を部分的に再開したが、その他の締め付けは継続中である。政治対話で進展があれば、PAはガザに対する財政的締め付けを緩和・停止するだろう。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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