中東かわら版

№122 イラン:地震による建物の倒壊を巡る政治責任の追及

 11月12日夜9時18分にイラン・イラク国境付近で発生したマグニチュード7.3の地震は、イランのケルマーンシャー州のサルポル・ザハーブを中心に大きな被害を出している。イラン当局は当初、少なくとも140人の死者、860人の負傷者が発生していると発表したが、14日現在、死者432人、負傷者7817人に上方修正している。ケルマーンシャー州政府の高官によると、100人から150人が州政府の許可なく埋葬されているようであり、最終的な死者数は530人から580人になる見込みである。また、イラン赤新月社によると、7万人以上が緊急の避難所を必要とする状況に置かれている。なお、イラク側では、7人の死者、535人の負傷者が発生しているとイラク内務省は発表した。

 11月14日、ロウハーニー大統領はケルマーンシャー州に入り、現地を視察した。ロウハーニーは現地での演説において、「誰が責められるべきであるか?」と述べ、「我々は犯人を見つけるべきである」と主張した。被災地では、アフマディーネジャード政権時に、メフル・プロジェクトとして低所得者向けに建てられた家屋が多く倒壊したと見られている。同演説においてロウハーニーは、「(アフマディーネジャード政権時代に)政府が建てた家屋はそれほど古いものでないにも関わらず、倒壊している」と述べ、暗に前政権を批判した。

 BBCの報道によると、地震発生から48時間が経過したにも関わらず、数千人がテントや食料、水の支援を受けられておらず、政府の対応の遅さが批判されている。ロウハーニー大統領の反対派は、ロウハーニーが前政権時代に建てられた建物の倒壊を非難する背景には、こうした批判の矛先をかわす狙いがあると糾弾している。

 

評価

 ユーラシアプレートとアラビアプレートの境界線上にあるイランは、世界的にも地震が最も多い国の一つであり、これまでもたびたび地震の被害を受けてきた。2003年にイラン南部のバムで発生した地震では、2万6000人を超える死者が発生しているほか、1、2年毎にマグニチュード6.0を超える地震に遭ってきた。

 今回の地震における被害の発生において、アフマディーネジャード政権時代に建てられた家屋の倒壊がどれだけ人災によるものであるのかは、専門家の分析を待つ必要があるだろう。しかし、イラン国内では、倒壊を免れた民間の建物と隣接して政府の建物が倒壊している写真を見て、前政権が杜撰な工事を行ったと疑う声が既に強まっている。

 一方で、ロウハーニー政権がこの問題を政治利用して被災者支援の遅れの責任追及を逃れようとすることは、政治的な対立を国内に生むリスクを伴う。今は犯人捜しよりも、トルコを始め周辺国からの支援の受け入れ態勢を整えるとともに、被災者に迅速に支援が行き渡ることに政治的努力を傾注するべきときだろう。

(研究員 村上 拓哉)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP