中東かわら版

№121 イスラエル:シリア南西部での停戦の動きを警戒

 イスラエルが、シリア南西部での停戦をめぐる動きに神経質になっている。7月初旬、米国、ロシア、ヨルダンは、シリア南西部の3県(ダルアー、クネイトラ、スワイダ)での停戦で合意した。この停戦協議は、ヨルダンのアンマンで行われ、イスラエルは米国から協議の中身については通知されていたと報道されている。しかし、イスラエルは、一貫して同停戦に反対している。7月17日、フランスを訪問したネタニヤフ首相は、イラン系の民兵組織がゴラン高原に隣接する地域に駐留する可能性があるとして、同停戦合意について反対であると明言した。その後もイスラエルは、8月23日のネタニヤフ・プーチン会談(於ロシア)、8月下旬のイスラエル代表団の米国派遣、10月18日のネタニヤフ首相・ロシアのショイグ国防相会談(於イスラエル)、ネタニヤフ・プーチン電話会談などで停戦に関する懸念を表明してきた。

 そうした中、11月11日、米国・ロシア・ヨルダンは、シリア南西部で暫定的な停戦地帯を設置する合意に署名した。報道では、同合意では、ロシアが、ゴラン高原の境界線付近に非シリア勢力を置かず、イスラエルとヒズブッラー、イラン系民兵の間を最短で5~7km、最長30kmの距離を置くことに責任を持つ。12日、イスラエル閣議は、同停戦合意について協議した。同閣議後、ハグネビ地域協力相が、イスラエルはシリア国内への攻撃を継続すると述べたほか、13日には、ネタニヤフ首相が、イスラエルは同合意に拘束されず、シリアでの作戦を継続すると明言している。イスラエルが執拗に停戦案に反対するのは、シリア南西部からヒズブッラー、イラン革命防衛隊及びイラン系民兵組織が排除されるとの確約がないためである。

評価

 ロシアや米国は、シリア内での停戦を模索している。一方、イスラエルは、シリアでの停戦模索のプロセスにはまったく参画していない。加えて、イスラエルは、ようやく暫定的に実現しつつある同国南西部での停戦の内容が、イスラエル側の懸念を考慮したものではないと強く反発している。

 イスラエル軍によるシリア国内への空爆は、公式な発表がないため攻撃回数などは不明である。2017年8月中旬、イスラエル空軍のアミール・エシュコル前司令官が、2012年以降、イスラエル空軍は、ヒズブッラーの武器を積んだ車列を約100回空爆したと発言している。同発言を基準にすれば、イスラエル軍は毎年20回弱の空爆をシリア国内で行ったことになる。他方、米国及び湾岸有志国は、2014年から2017年10月下旬までにシリア(湾岸諸国空軍の空爆はシリアだけ)、イラク両国で計2万7566回の空爆を行ったと報道されている。同空爆の半分がシリア空爆であると空爆回数は年3400回を超える。米国中央軍のHPを見ると、米軍は最近までシリア国内での対「イスラーム国」空爆を毎日30回~40回実施していた。さらに、シリア国内では、ロシア空軍、シリア空軍も爆撃を行っており、イスラエル軍が実施したと推定される年20回程度の空爆は、シリア全体で行われている空爆のごく一部に過ぎない。

 ロシア、米国、トルコなどが、シリアで模索しているのは、戦争状態の中での部分的な停戦実現である。他方、イスラエルが要求しているのは、規模は大きいが、ヒズブッラーやイラン系民兵組織に対するテロ対策である。シリアでの戦争状態を停止させるための政治、外交、軍事的な動きの過程にイスラエルは参加しておらず、参画も期待されていない。従って、シリア国内の軍事状況に関するイスラエルの主張が、当事者や停戦を仲介する諸国によって真剣に考慮される可能性は、当面の間、あまり高くないだろう。

 

(中島主席研究員)

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