中東かわら版

№117 イスラエル:イスラーム聖戦機構の戦闘員の遺体を保管

 2017年10月30日、イスラエル軍は、ガザ南部の境界付近に掘られたパレスチナ側の地下トンネルを空爆で破壊した。パレスチナ側は、当初、同空爆でトンネルが破壊され、少なくともハマースとイスラーム聖戦機構の戦闘員計7人が死亡、14人が負傷したと発表した。11月3日、イスラーム聖戦機構は、トンネル内で行方不明になっていた同機構の戦闘員5人が死亡したと発表した。5日、イスラエル軍は、トンネル内で死亡したイスラーム聖戦機構の戦闘員5人の遺体を保管していることを明らかにした。6日、イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラーム聖戦機構活動家5人の遺体について発言し、ただで引き渡すつもりはないとして、ハマースがすでに保管しているイスラエル軍の兵士2人の遺体との交換を強く示唆する発言をしている。

 ハマースは、2014年のガザ戦争の際、ガザ内で戦死したイスラエル軍兵士の2遺体を保管している。同兵士らの遺族は、遺体返還を実現するよう政府に強く要求しており、訴訟も起こしている。イスラエル政府は、ファタハとハマースの政治対話を仲介しているエジプトに、イスラエル軍兵士の遺体返還についての仲介を依頼しており、パレスチナの和解協議とイスラエル軍兵士の遺体返還協議が同時並行的に協議されている。

評価

 10月30日のイスラエル軍による地下トンネル攻撃については、トンネルの掘られた場所、イスラエル軍がトンネルを破壊した方法、同軍がイスラーム聖戦機構の戦闘員の遺体を回収した場所や方法など不透明な点が多い。イスラエル軍は、2014年夏以降、2人の兵士の遺体の引き渡しをハマースに要求しているが、実現していない。今回、イスラエルがイスラーム聖戦機構の戦闘員5人の遺体を確保したことで、遺体の交換交渉が進むかもしれない。他方、ハマースあるいはイスラーム聖戦機構が、新たなイスラエル人捕虜を取るかイスラエル人を殺害して新たな遺体を確保しようとする場合、両者間の緊張が高まることは避けられない。

 ハマースは、最近、イスラエル軍を刺激するような行動を慎重に避けている。イスラエル側へのロケット弾攻撃はほとんどない。10月30日のトンネル破壊攻撃によって、ガザが経済的、財政的に逼迫している最中に、ハマースとイスラーム聖戦機構は、トンネルでの作業を実施していたことが明らかになった。ガザ住民の印象は良くないだろう。今後、ハマース/イスラーム聖戦機構がイスラエル軍に対する報復行動に出るとすれば、イスラエル軍の報復攻撃によりガザ住民にさらになる苦しみを与え、現在進展中のファタハとの和解の動きも中断されるだろう。和解の動きが中断されれば、パレスチナ自治政府のガザに対する財政的締め付けが継続され、住民の苦境は一層深まる。

 最近、イスラエル軍は、テロ行為を理由に殺害したパレスチナ人の遺体返還を引き延ばす戦術を使うようになっている。遺族たちは、家族を殺害された上に、遺体を返してもらえず、葬儀を出せないケースも出ている。こうした動きの背景には、ハマースがイスラエル軍兵士の遺体を交渉の材料にしていることがあるかもしれない。イスラエルとパレスチナ間の紛争は生きている者同士の衝突だけではなく、死者(遺体)たちも紛争の道具として駆り出される様相を呈しつつある。

(中島主席研究員 中島 勇)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP