中東かわら版

№110 エジプト:西部砂漠で武装組織と警察が銃撃戦、警官54人死亡

 10月20日、西部砂漠のバフレイヤ・オアシス近くで警察部隊が武装組織の拠点を襲撃したところ武装組織と銃撃戦になり、内務省の発表によると警官16人が死亡、武装組織メンバー15人が死亡した。ロイター通信や地元紙は、警官の死者数を56人と報じている。治安筋によると、武装組織は迫撃砲で警察側を攻撃した。事件のあった場所は、カイロからバフレイヤ・オアシスに向かう道路の135㎞地点だった。

 24日現在まで、いずれのイスラーム過激派からも犯行声明は出ていない。一部の地元メディアは、カイロなどで警官に対する銃撃を多数行っている「ハサム運動」が犯行主体であると報じた。しかし別のメディアや専門家は、「ハサム運動」が今回のような組織的な作戦を行う能力をもつとは考えられないとして、「ムラービトゥーン旅団」(アル=カーイダを支持)の指導者、ヒシャーム・アシュマーウィー(通称アブー・ハムザ・アンサーリー;元エジプト軍特殊部隊兵士)が作戦に関与しているとの見方を示している。なお、「ハサム運動」の犯行声明がSNS上で出回ったが、公式サイトを通じた発表ではなく信憑性は低い。

 

評価

 2011年以降、リビア・エジプト国境地帯でのヒト・モノ・カネの違法な移動が増加し、西部砂漠は不法移民、イスラーム過激派戦闘員、武器が移動する場所となった。2014年にはファラーフラ・オアシスで国境警備隊兵士22人が殺害された事件(「エルサレムの支援者団」の犯行)が、2015年にはバフレイヤ・オアシス付近で武装組織の掃討作戦を行っていたエジプト空軍がメキシコ人観光客を誤爆する事件が起きている。

 「ハサム運動」の活動や治安部隊の同組織に対する掃討作戦はカイロ県やギザ県の中心部で行われており、また同組織が迫撃砲のような武器で作戦を実行したことはない。そのため、「ハサム運動」による犯行の可能性を否定する説には一理ある。他方、アシュマーウィーは現在リビア東部のデルナに潜伏し、現地の武装組織と関係を有しているとされる。同人が関与している場合は、迫撃砲のような重火器がエジプトの西部砂漠に持ち込まれる可能性はあるだろう。しかし、いずれにしても現段階では犯行主体は不明であるとしか言えない。

 いずれの組織による犯行であるにせよ、エジプト政府は常々、西部砂漠における武装組織の活動はリビア情勢の不安定さがもたらしていると考えている。そのため、エジプト政府は今後、リビアの主要勢力に国家統一プロセスと治安の安定化をさらに強く求めていくだろう。特に、リビア東部を支配するハリーファ・ハフタル・リビア国民軍総司令官との関係を強化し、彼がリビア統一プロセスで重要な政治的・軍事的役割を担うことを求めていくと考えられる。

(研究員 金谷 美紗)

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