中東かわら版

№109 エジプト:水資源相がGERD建設に係る調査の遅れに不安を表明

 10月17、18日にかけて、エジプトとスーダンの水資源相がエチオピアのGrand Ethiopian Renaissance Dam(GERD)の建設現場を訪問した後、3カ国の水資源相レベルで会議を実施した。本会議は同ダムによって下流のエジプトとスーダンが被りうる影響を調査するコンサルタント会社が、どのような手段で調査を行うかに関して、3カ国の対立を解消することを目的とした。

 会議の前の合同記者会見の中で、エジプトのアブドゥルアーティー水資源・灌漑相は、エジプトとしては技術調査の遅れに不安があると表明し、この調査の早期終了について3カ国で合意し、これを順守すべきだと強調した。今回のGERD建設現場の視察は、2015年12月にスーダンのハルツームで開催された3カ国の水資源相・外務相級会議での合意を受けて実施されたものである。

評価

 

 エジプトは国内の水資源の大部分をナイル川に依存しており、その8割強はエチオピアの降雨を水源とする。そのためエジプトは、自国のナイル川からの取水量等が影響を受けない限りにおいて、エチオピアを含むナイル川上流での治水・利水開発を支持する立場を取っている。こうしたエジプト側の事情に限らず、エチオピアが2011年に建設を始めたGERDは、エジプトに毎年流入する水量の大部分を貯水することができる。そのためエジプトは貯水によって下流に流れる水量が低下したり、水質が汚染されたりすること等を懸念している。とくに、ダム湖の貯水をどれ位の期間で実施するかについて懸念しており、3年から5年など短い期間で貯水を行おうとするエチオピアと、できるだけ下流が受ける影響を少なくしようと8年や10年など時間をかけた貯水を求めるエジプトの間で意見が割れている。一方、スーダンはGERD建設を支持している。

 こうした背景がある中行われた今回の3カ国水資源相による会議は、GERDダムの影響評価の調査手法に関して、3カ国の意見の相違を解決することに主眼を置いている。なお、この影響評価は、2011年に3カ国が結成した「IPoE: International Panel of Experts」による2013年までの調査を踏まえて実施される(IPoE、これまでの交渉の経緯については「中東分析レポート」No.17-01をご覧ください。)。影響評価は、3カ国が委託したコンサルタント会社2社が実施する。その調査手法は、今年の4月にコンサルタント側が調査を開始するに当たって作成した報告書の中で提示したものである。影響評価を実施することは、2014年の段階で3カ国の間で合意されたものの、調査内容等をめぐり3カ国が対立してきた経緯があり、未だに影響評価をするための予備調査をする段階にある。

 交渉が進まないことを受けて、エジプトではGERD建設問題の外交上の優先順位が引きあげられているようである。例えば、9月19日の国連総会の演説でシーシー大統領は、中東地域におけるテロリズムの問題、パレスチナ問題を終わらせる必要性等に触れたほか、アフリカとの関係の深さをアピールしており、相互協力の文脈の中でGERD建設問題を3カ国で解決していく意思を表明している。また、同総会中、エジプト外相がエチオピア外相と会談し、コンサルタント会社の調査の遅れに対し懸念を示したうえで、2国間関係の強化を目的とした両国間の最高合同委員会を結成することについて協議している。なお、これに先立つ10月15日には、エジプト国内でナイル川最高委員会が開催された。イスマーイール首相、外相、灌漑相、農業相がこれに出席し、18日のエチオピアでの会議への対処方法に関して協議し、意見の調整を行っている。本委員会終了後、イスマーイール首相は「コンサルタント会社が提出した評価方法に関する報告書について我々は原則的に合意はするが、エジプトとエチオピアの双方に保留事項がある。この姿勢は相互合意に至るためのエジプトの真摯な姿勢」との旨発言しており、政府としてエチオピア側に妥協の姿勢を見せているようにみられる。なお、同委員会には大統領、国防相、総合情報庁長官も委員として含まれており、その内実は不明だがナイル川に関する外交政策の最高意思決定機関とされる。さらに、外務省がGERD建設交渉に関与する背景として、2014年のシーシー大統領就任以降、水資源・灌漑省の管轄下で交渉が進まず、これが政権内で問題視されたことがある。すでにエジプト外務省のホームページでは、GERD建設計画が対外政策の項目として独立して掲載されており、エジプト政府がGERD建設交渉に対し政治的な働きかけをしていることがわかる。

 GERD建設交渉が難航していることに変わりはないが、交渉で話し合われる技術的な問題に加え、交渉に政治的な影響を与えようとするエジプト側の動きにも注意していく必要があるだろう。

(西舘研究員)

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