中東かわら版

№108 イスラエル:シリアをめぐるイランとの対立が拡大

 10月16日、イスラエル空軍は、ダマスカスの東にあるシリア軍のミサイル基地を空爆してレーダー施設とミサイル発射基を破壊したと発表した。イスラエル軍は、シリア紛争が激化した後、シリア国内にあるヒズブッラー向けの武器の貯蔵庫や車列に対する空爆を継続しているが、シリア軍の地対空ミサイル基地を攻撃したのは初めてである。イスラエル軍側の発表では、レバノン領空内で偵察飛行を行っていたイスラエル軍機に対して、ダマスカス近郊のミサイル基地からSAMミサイルが発射された。同ミサイルは、イスラエル軍機の脅威とはならなかったが、約2時間後、イスラエル軍は対レーダー・ミサイルを使用して同基地を破壊した。イスラエル側の攻撃は、シリア領空外から実施された。今回の衝突についてシリア側は、迎撃ミサイルを発射し、イスラエル軍機を撃墜したと発表している。シリア軍が、イスラエル側にSAMミサイルを発射したのは2017年3月に続き、2回目である。この時イスラエル軍は、イスラエル領空内でSAMミサイルを破壊しているが、ミサイル基地は攻撃していない。シリア軍は、国内での紛争が激化した後、イスラエル空軍のシリア領空侵犯に対応していなかったが、2016年の秋以降、防衛行動を取るようになった。

 イスラエル軍は、シリア国内のミサイル基地を攻撃することをロシア側に事前に通告している。また同攻撃の直後に、ロシアのショイグ国防相がイスラエルを訪問し、16日にリバーマン国防相、17日にネタニヤフ首相と会談している。ネタニヤフ首相は、ショイグ国防相に対して、シリア国内にイランが軍事的プレゼンスを確保することは許さないと伝えたと報道されている。またネタニヤフ首相は、国防相の訪問終了直後の18日には、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、シリア情勢を協議している。

 一方、シリア側では、18日にイラン軍のバーゲリー参謀総長がダマスカスを訪問した。同参謀総長は、イスラエル軍によるシリアの主権侵害をイランは容認しないと発言している。同参謀総長は、翌19日にはアサド大統領と会談し、軍事協力について協議した。イスラエルのリバーマン国防相は、バーゲリー参謀総長の発言に対して、イランが何を言おうがイスラエルの政策は変わらないと反論している。

評価

 イスラエルは、「イスラーム国」掃討作戦が終了した後、シリアにおけるイランの影響力が増大すると見ており、警戒心を高めている。イスラエルは、イランの影響力増大の結果、シリア国内での戦闘が暫定的であれ終息した時、ゴラン高原の休戦ラインのシリア側にヒズブッラーの部隊あるいは、イラン系民兵か革命防衛隊などが居座るのではないかと懸念している。この点については、イスラエルはすでに何度もロシアと米国にイスラエル側の「レッド・ライン」として警告・通告している。報道では、今回イスラエルを訪問したロシアのショイグ国防相は、ゴラン高原の休戦ラインに沿ってシリア側に緩衝地帯を設置する旨イスラエル側に伝えたともいわれるが、イスラエル側の不安は解消していないようだ。イスラエル側のメディアは、イラン軍参謀総長が、イスラエル軍によるシリアの主権侵害を許さないと発言したことを受けて、イスラエル軍とイラン軍がシリアで軍事衝突する可能性が高まったと報道している。

 こうしたイスラエル側の対イラン懸念とは別に、シリア軍が、自国あるいはレバノン領空を侵犯したイスラエル軍機に対する防衛行動を取ることは今後増加するだろう。イスラエル政府・軍要人の発言によれば、イスラエル軍は、シリア紛争が激化した後、これまで数十回­から100回近いシリア国内への空爆を実施している。主要な攻撃対象は、ヒズブッラー向けの武器・兵器だと言われている。ロシア軍がシリア国内での空爆作戦を開始した後、ロシア軍によるシリア領空のレーダー監視が強化されたため、イスラエル軍はレバノン領空あるいは地中海上空からシリア空爆を行うようになったようだ。今回シリア軍が、レバノン領空を侵犯したイスラエル軍機を攻撃したのは、このような背景があるからかもしれない。

(中島主席研究員 中島 勇)

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