中東かわら版

№106 イラク:政府軍がキルクークなどを制圧

  2017年10月16日、イラク政府軍はシーア派民兵の「人民動員」諸派やイランの革命防衛隊の支援を受けつつ、クルド地区政府のペシュメルガが占拠していたキルクーク県内の重要施設を制圧した。

 

評価

 

 図に示されているとおり、「県境」、「クルド自治区」、「ペシュメルガが占拠してる地域」は各々異なる。クルド地区政府と連邦政府などとの係争となっている地域はおおむね赤の実線と赤の点線に挟まれた地域となる。この地域には、キルクーク市とその周辺の軍事基地や石油施設、モスル市北方・東方、シリアとの国境地域のように、2014年にイスラーム国がモスルを含むイラクの広範な地域を占拠して以後の混乱や「イスラーム国」掃討の過程でペシュメルガが占拠した地域が含まれる。

 

 今般の政府軍の進駐に際しては、一部で「人民動員」とペシュメルガとが交戦した模様だが、特に大規模な衝突もなく、政府軍などがキルクーク県庁、キルクーク市周辺の軍事基地、北イラク石油会社などの石油施設、発電所などを迅速に制圧した。これについては、キルクークとその周辺のペシュメルガ部隊が、政府軍・「人民動員」・革命防衛隊との合意に基づいて諸拠点を引き渡したともいわれている。クルド地区政府は、9月25日に実施したクルド地区の独立を問う住民投票を契機に連邦政府だけでなくトルコやイランからも制裁措置を課されている上、クルド地区の独立の動きに対しては欧米諸国も冷淡である。こうした中で、兵力や装備に勝る政府軍・「人民動員」・革命防衛隊に対抗することは困難であろう。

 

 また、ペシュメルガがキルクーク市などから退去した件については、イラクのクルド勢力の二大勢力であるKDP(クルディスタン民主党)、PUK(クルディスタン愛国同盟)が、各々相手の傘下の部隊が拠点を引き渡して退去したとの非難合戦を行っている。クルドの諸派は、キルクークを「クルドのエルサレム」と称し、同地をクルディスタンと不可分の都市と主張してきたが、その要地から政治的にも軍事的にもほぼ無抵抗で退去せざるを得なくなったことで、クルド地区政府やクルド民族主義諸党は厳しい立場に立たされるといえる。

 また、国際的な支持がなく、軍事的にも劣勢、さらにはクルド地区内部でも党派対立や意見の相違を抱える中、住民投票実施からキルクークからの退去に至った過程を見ると、クルド地区の指導者たちの状況判断能力や、住民投票実施の狙いにさらなる疑問符を付けざるを得ない。現状では、イラクや中東内外の諸当事者の理解や支持を得て、クルド地区政府自身や、クルディスタンの権益を拡大する方途は極めて限られているように思われる。

(髙岡上席研究員)

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