中東かわら版

№105 イラン:トランプ米大統領がイランの核合意履行を認定せず

 10月13日、トランプ大統領は米国の新たなイラン戦略について演説を行い、イランが核合意を履行していると認定しないと述べた。米国政府は、国内法により90日ごとに議会に対して合意の履行状況を報告することになっている。トランプは大統領就任前から核合意の破棄を主張していたが、政権が成立してから2度あった核合意の履行状況確認では、イランは核合意を履行していると議会に報告していた。

 演説では、イランがテロや民兵への支援によって地域を不安定化させているという現状認識の下、イランの行動に対して伝統的な同盟国と地域のパートナーと協力していくという方針が示され、特に革命防衛隊の活動や弾道ミサイル開発とその拡散に対して規制を強化していくことが明らかにされた。また、核合意については、イランの核能力取得を短期間遅らせるだけのものであり、さらにイランは重水の保有制限を2回超過した、先進的な遠心分離機の操業について期待に応えてこなかった、軍事施設への査察を拒否すると主張している、などの違反を犯していると評価した。これに関連し、米財務省は、8月に成立した米敵対者制裁法(CAATSA)に基づき、革命防衛隊と、これに協力した中国企業を含む4社を制裁リストに追加した。米国が核合意により凍結した対イラン制裁を復活させるか否かは、議会が判断することになる。

 イランは米国の措置に強く抗議し、ザリーフ外相はトランプの演説こそが核合意違反であると主張している。イラン国内では、米国への反発や革命防衛隊に対する連帯が呼びかけられるデモや集会が発生した。また、英国、フランス、ドイツといった核合意の当事者である欧州諸国からも、米国に対する批判と核合意の維持が叫ばれている。

 

評価

 トランプが大統領就任前から主張していたイラン核合意の破棄は、形を変えて今回の措置に至ることになった。多国間協定であるイラン核合意は米国の一存で破棄できるものではないため、そもそも合意の破棄が起きる可能性は非常に乏しかった。そのため、トランプ政権は、イランが核合意を履行していると「認めない」ことで、これを実質的に骨抜きにしようとしている。もっとも、IAEAや過去の米国務省の報告が示しているように、今日までイラン側に核合意の明白な不履行は生じておらず、重水の保有制限の超過も一時的なもので既に解決済みの問題である。

 今回の革命防衛隊への制裁措置は、テロ支援を問題視したものであり、8月に新たに成立した制裁法の初の適用となる。もっとも、革命防衛隊は既に大量破壊兵器の拡散や人権侵害により財務省の制裁リストに載せられているため、実質的な影響は乏しい。また、報道では革命防衛隊が国務省の海外テロ組織リストに追加される可能性について報じられていたが、今回、こちらのリストへの追加は行われなかった。

 今後の焦点となるのは、米議会がイランへの制裁を復活させるかどうかである。イラン政府は、核合意から米国が離脱することを批判しつつも、ヨーロッパ諸国が合意の履行を継続するのであれば、イランは合意から離脱しない意向であると表明していた。しかし、米国の制裁が復活し、イランの経済活動に影響が出るようになれば、革命防衛隊を始めとする保守強硬派勢力は対抗措置を講じるだろう。弾道ミサイルの開発はイラン国内では問題視されていないため、新たな実験に踏み切ることで米国に強気な姿勢を示すかもしれない。

 また、国内政治の文脈では革命防衛隊と対立しているロウハーニー政権にとっては、国外に米国という敵が顕在化したため、革命防衛隊への批判や改革を行いにくい状況が生じている。トランプ政権によるイランへの締め付けの強化は、イラン国内で強硬な勢力の影響を伸長させることにつながるだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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