№103 トルコ:米国との相互査証(ビザ)発給停止
米国は、2016年7月15日にトルコで発生したクーデタ未遂事件に関連した捜査で、2017年10月4日に在イスタンブル米国総領事館のトルコ国籍の職員が当局に身柄を拘束されたことを受け、8日に査証(ビザ)の発給を停止した。
この決定に対し、トルコ側も対抗措置として米国でのトルコ入国ビザの発給を取りやめ、10日現在、両国は一時的にビザ発給業務を停止している。トルコ政府は米国公使を外務省に呼び、ビザ発給業務停止の撤回を求めている。ウクライナを訪問中だったエルドアン大統領は、今回の米国側の決定に強く反発している。
トルコ・米国双方が、両国間の関係を再評価するとしたうえで、「この間、大使館と領事館への訪問者を最小限にするため両国市民に対するすべてのビザ業務を停止する」旨、声明を発表した。
評価
トルコ政府は、2016年7月のクーデタ未遂事件の首謀者として事件発生直後からイスラーム指導者で米国に亡命中のフェトフッラー・ギュレン氏の引き渡しを求めている。米国は、同事件に関するギュレン氏の明確な関与を示す証拠が提出されていないことを理由に同氏の引き渡しを拒否しており、両国間の関係は冷めた関係にあった。また、「イスラーム国」掃討作戦をめぐり、「イスラーム国」に対峙するクルド系組織への武器供与を伴う米国の支援もトルコを苛立たせている。先月、国連総会にあわせて訪米したエルドアン大統領とトランプ米大統領との首脳会談が行われ、両国は友好関係をアピールしたものの、今回の件を契機に更なる関係悪化は避けられない。
今回の問題が長期化すれば政治だけでなく経済にも打撃を与える。米国はトルコの貿易相手国の中で輸出入ともに5位の相手国であることから、このままビザ発給が停止されれば、大きな影響があることは必至となろう。
だが、ギュレンの身柄引き渡しとクルドをめぐる問題は、今のトルコにとっては最大の問題であり簡単に妥協はできない。エルドアンが批判を浴びながらも国内で一定数の支持を得られているのは、クルドに対する強固な姿勢にもある。トルコにとって米国との早急な関係改善は重要だが、引けない理由がある以上、解決に向けた道のりは困難なものとなろう。
(研究員 金子 真夕)
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