中東かわら版

№97 サウジアラビア:女性による自動車の運転を解禁

 9月26日、サルマーン国王は、女性による自動車の運転を解禁する勅令を発出した。同勅令は内相に向けて発出されており、ヒジュラ歴の10月10日(西暦で2018年6月24日頃)までに履行が行われるよう指示が出されている。また、これに関連して、内相、財務相、労働・社会開発相による高等委員会が設置される。

 また、ハーリド・サルマーン駐米大使は、女性が運転免許を取得するにあたり、後見人の許可を取る必要はない、GCC諸国の運転免許証を持っている者はサウジ国内での運転が可能であると述べている。

 2011年の「アラブの春」時に自身が自動車を運転する動画をネットに公開して拘束された女性人権活動家のマナール・シャリーフは、この決定を歓迎する声明を発出した。

 

評価

 サウジアラビアにおける女性による自動車運転問題は、同国における女性の権利に関して象徴的な地位を占めるとともに、社会運動においても中心的な役割を果たしてきた。1990年以降、女性の活動家らは運転デモや請願書の提出などを通じて問題を喚起し続けてきた。これらは、サウジアラビアの「後進性」を示すものとして、欧米諸国からたびたび批判の対象にあってきた。

 一方、政府は早い段階から将来的な女性の自動車運転の可能性に言及しており、2005年にはアブドゥッラー国王が、『ABC News』のインタビューにおいて「女性が運転する日が来ることを信じている」と述べている。これは、サウジ社会のなかで、女性の自動車運転に否定的な価値観が存在することを反映したものであり、女性の自動車運転を認めるべきでないと主張する請願書がサウジ女性の集団から提出されたこともある。ムハンマド・サルマーン皇太子は、副皇太子時代から女性の運転を認める方向性の議論を進めてきたものの、これに対してアブドゥルアジーズ大ムフティーが女性の車の運転に反対する立場を表明するなど、政府と宗教界の間での軋轢が発生していた。

 サルマーン国王が女性の自動車運転を解禁する決断を下したのは、サウジ社会の価値観の変容、宗教界の影響力低下などが背景にあると考えられよう。若者世代の多くは、ムハンマド・サルマーン皇太子が進めているリベラルな改革を肯定的に受け止めているが、これは留学や衛星テレビ、インターネットを通じて欧米の価値観に日常的に触れているからかもしれない。

 また、経済的には、外国人運転手の雇用を減らすことでプラスの影響があると見られる。『Al-Arabiya』は、サウジ国内にサウジ人女性のためだけで80万人の外国人運転手がいるとの統計があると指摘するとともに、今回の決定は家計における経済的負担を軽減させるものであるとの専門家の見解を紹介している。

(研究員 村上 拓哉)

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