中東かわら版

№96 チュニジア:行政和解法の可決とこれに対する反発

 9月13日、議会は、2011年以前に公金横領などの汚職や人権侵害に関与した官僚など公務員に対して恩赦を与える法律(経済及び金融分野における和解手続きに関する法律2015/49号;通称「行政和解法」)を、賛成117、反対9、棄権1で可決した。ただし、全議員217人の4割にあたる90人が、法案に反対して採決を欠席した(下記表を参照)。

       【法案採決における各会派の行動】

     会派

 賛成

 反対

 棄権

 欠席

チュニジアの呼びかけ

     50

      0

      0

      7

ナフダ

     31

      5

      1

     32

自由(チュニジア計画運動)

     14

      0

      0

      9

人民戦線

      0

      0

      0

     15

自由国民連合

      6

      3

      0

      3

民主主義

      0

      0

      0

     12

無所属

      4

      1

      0

      6

チュニジア展望と在外チュニジア人の呼びかけ

      5

      0

      0

      5

国民主義

      7

      0

      0

      1

   117

      9

      1

     90

(出所)モザイクFM(2017年9月14日付)より筆者作成。

 行政和解法は、①違反行為に関与したが個人的利益を得るためではなかった公務員をその違反行為で起訴しない、②既に起訴されている公務員については起訴が取り下げられる、とする内容で、法律の適用対象期間は1955年7月から2011年1月14日までである。恩赦を受けた者で後に事実の隠ぺいが明らかになった場合は起訴される。同法の規定の適用に関する異議申し立ては、破棄院第一長官、破棄院の年長判事2名から成る委員会によって処理される。

 13日の法案可決後、国内外の団体が、同法はチュニジアにおける移行期正義の実現を妨害し、民主主義と人権を著しく侵害する内容であるとの反対声明を出した(国内=真実尊厳委員会(旧政権時代の人権侵害問題を明らかにする公聴会を実施中)、チュニジア人権連盟(2014年ノーベル賞受賞)、チュニジア判事協会など;海外=Transparency International、移行期正義国際センター、Human Rights Watchなど)。チュニジア法曹界の最高機関である「最高司法評議会」は、議会が憲法114条に反し、法案について事前に同評議会の諮問を受けずに可決したことに遺憾の意を表明した。19日には、人民戦線党などの議員38人が法律の合憲性審査を要求している。

 

評価

 行政和解法は、2015年3月にシブシー大統領が最初に提案した。旧政権時代に汚職に関与した官僚や実業家の公的活動や経済活動を許可し、経済の復興を実現することが目的である。しかし、複数の政党や市民社会が同法案に反対したため、議会での法案審議は停止されたが、2017年5月、再び政府主導で議会委員会での法案審議が再開された。当初案では恩赦の対象に実業家も含まれたが、最終的には公務員に限定された。

 同法への反対を表明した諸団体が指摘する「移行期正義」とは、独裁から民主体制へ、または内戦から平和への移行において、過去の人権侵害の実情を明らかにし、次の時代に同じ過ちを繰り返さないことを目的とする。チュニジアでは2013年に移行期正義法が成立し、真実尊厳委員会による犠牲者と加害者の証言を通じた人権侵害事例の公表と和解のプロセスが定められ、これに基づく公聴会が行われている。これとは別に、通常の司法手続きによる旧政権関係者の裁判も行われている。

 行政和解法の問題は、これら2つの移行期正義の手続きをすべて無効とし、汚職や人権侵害に関与した公務員に恩赦が与えられる可能性があることである。より具体的な問題としては、真実尊厳委員会と行政和解法という重複した移行期正義手続きをどのように処理するのか、行政和解法では旧政権時代の汚職や人権侵害事例の情報が公開されずに恩赦が与えられるのか、という点がある。特に後者については、情報が非公開のまま恩赦が決定された場合、独裁時代の体系的な汚職・人権侵害の実態が明らかにされないため、移行期正義の目的である「次の時代に同じ過ちを繰り返さない」ことが実現されない恐れがある。

 市民団体や野党はこの点に強く反対している。この恐れは多くの政党に共有されているようで、上記表から、法案採決に欠席した議員が与党・野党を問わず多数存在することからもうかがえる。特に、連立与党のナフダ党に欠席議員が多かったことは、ナフダ党と、シブシー大統領の強い影響下にあるチュニジアの呼びかけ党との間に、同法に対する態度に隔たりがあることを示している。

 以上のような問題を行政和解法は抱えているものの、移行期正義の問題は時代がたつごとに市民の関心が薄れていくものである。したがって、政党間の政争の材料にはなるものの、日常生活の安定を最大の関心事とする市民にとっては、政府への支持/不支持の態度を決定する要因にはなりえないかもしれない。今後、行政和解法の施行がチュニジアの民主主義、経済活動にどのような影響を与えていくのかが注目点となるだろう。

(金谷研究員)

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