№95 パレスチナ:ファタハとハマースの政治和解
9月17日、ガザのハマースは声明を発表し、パレスチナ自治政府(PA)が要求していたガザの行政委員会を解体する、パレスチナでの総選挙を行う、また統一政権にガザ統治をまかせるとした。ファタハ側は、ハマースの発表を歓迎し、18日には国連総会に出席中のPAのアッバース大統領が、ハマースのハニーヤ政治局長と電話で会談した。アッバース大統領は、国連総会から帰国した後、ハマースとの政治対話を進めると報道されている。
ハマースは、9月中旬、カイロでハマース幹部の会合を開催したほか、エジプト側との協議を行っていた。9月9日、ハニーヤ政治局長は、ガザからエジプトを訪問した。ハニーヤがガザから出たのは、5月に政治局局長に選出された後初めてである。ガザ地区の政治局長サンワールもカイロを訪問し、9月10日には、ハマースの政治局幹部21人が集まり、ファタハとの政治対話、エジプトとの関係、アラブ諸国及びイランとの関係などの協議を開始した。ハマース幹部らは、エジプト側との協議も行い、11日にはハニーヤ政治局長が、アッバース大統領と前提条件なしで協議を行う用意があると声明していた。
ハマースは、ガザ統治を手放す用意があることを表明したが、具体的な動きはまだ何もない。19日に開催されたパレスチナ自治政府の閣議では、ガザの統治の責任を担う用意があるとの声明が出された。アッバース大統領顧問のナビール・シャースは、ガザ統治掌握の最初のステップは、PAのハムダッラー首相がガザを訪問をすることだと述べている。ハマースは、ファタハが要求していたガザの行政委員会を解散すると決定したのだから、電気料金の支払い拒否などガザに対する一連の財政圧力を停止するよう求めている。
ファタハとハマース間の関係修復に関する別の動きでは、2007年にガザで発生したファタハ幹部ムハンマド・ダハラーン派の治安部隊とハマース治安部隊の衝突で犠牲となったファタハとハマース活動家遺族に関して、9月中旬から賠償金の支払いが開始されている。これは、ファタハを追放された元幹部ムハンマド・ダハラーンの肝いりで、UAEの支援を受けて開始されたもので、遺族1家族あたり5万ドルの支払いが開始され、約700家族が保障を受ける予定だと報道されている。
評価
パレスチナは、2007年以降西岸とガザに分裂している。この間、ファタハとハマースは、統一政権樹立で何度か合意しているが、合意の履行ができず、和解の試みは失敗に終わっている。今回もこれまでと同様に、和解の掛け声だけで終わるかもしれない。ファタハとハマースの和解が進めば、その恩恵を一番受けるのは、封鎖状態のガザで長時間の停電などの生活苦に直面するガザ住民たちである。しかし彼らは、今回の合意にほとんど反応していない。
パレスチナ自治政府が、ガザ統治を再開するための最低条件は、ハマース治安部隊の処遇についてファタハとハマースが合意することである。今回の合意では、ハマースの治安部隊についての議論はまだ何も表面化していない。仮に今回の合意が履行段階まで進展したとしても、PAのガザ統治開始はまだ先であり、紆余曲折があるだろう。
(中島主席研究員 中島 勇)
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