中東かわら版

№93 イスラーム過激派:ロヒンギャ問題への反応

 ミャンマーにおいてロヒンギャと呼ばれる人々に対する迫害が国際問題となっている。それに伴い、ロヒンギャの人々をはじめとするミャンマーへのイスラーム過激派の浸透や、同国でイスラーム過激派が何らかの攻撃を実行する可能性が懸念されつつある。アラビア語を用いて広報活動を行うイスラーム過激派諸派は、ロヒンギャ問題について最近要旨以下の通り反応した。 

 

発信者

発表年月日

主な内容

インド亜大陸のアル=カーイダ

2017年6月25日

断食明けの祝祭に合わせて「行動規則」と称する文書を発表。「ビルマでの標的:ムスリムを抑圧するビルマ政府、ビルマ軍。ただし一般のヒンドゥー教徒、仏教徒、他宗教信徒、その信仰場所は我々の攻撃目標ではない。」と記述。

ターリバーン

2017年9月3日

「ビルマにおけるムスリムの大量虐殺に関するイスラーム首長国声明」を発表。ロヒンギャ問題に関心を払わない各国や国際的な報道機関・人権団体などを批判。

シャバーブ

2017年9月7日

総司令部名義で「ラカイン(注:アラーカーン=ロヒンギャの人々の居住する地域の地名)は助けを求めている、誰が応えるのか?」と題する声明を発表。バングラデシュ、マレーシア、パキスタン、インド、インドネシアに決起を促すとともに、「インド亜大陸のアル=カーイダ」に仏教徒に対する報復を求めた。

アル=カーイダ総司令部

2017年9月12日

「アラーカーンがあなた方を呼んでいる」と題する声明を発表。バングラデシュ、インド、パキスタン、フィリピンの全ムジャーヒドゥーンに対し、ビルマへの総動員を呼びかける。また、ビルマのムスリムがかかる不正に抵抗するために必要とする準備や訓練を提供するよう呼びかける。

 

 

評価

 

 イスラーム過激派は、かねてより全世界で彼らがムスリムに対する侵略・迫害と認識する問題に言及し、自らの正当化と国際的な資源の動員を図ってきた。ミャンマーもそのように言及される地域の一つであり、遅くとも2005年にはアル=カーイダと親しいイスラーム過激派団体/活動家が「ジハードの地」として同国を挙げている。ミャンマーについてはアル=カーイダと同派の系列団体がより注目している模様であり、上に挙げた以外にも、「アラビア半島のアル=カーイダ」、「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」、「サハーブ広報製作機構」が声明や機関誌、パンフレットで言及している。これは、近年、従来からの支持者と資源の供給源を「イスラーム国」に奪われて勢力を著しく衰退させたアル=カーイダが、国際的に注目を集めつつあるロヒンギャ問題を広報の題材として利用し、インド、東南アジア方面への勢力拡大を試みている兆候と考えられる。実際、2014年9月にザワーヒリーが「インド亜大陸のアル=カーイダ」の結成を発表した際、ミャンマーも不信仰者の支配下にある土地として挙げられ、同地を含むインド亜大陸への働きかけを強めようとしていることが示されていた。ただし、「インド亜大陸のアル=カーイダ」をはじめとするアル=カーイダとその系列団体は、ミャンマーのムスリムに対して支援を呼びかけるのみで、具体的な戦果を発表した実績はない。

 

 一方、「イスラーム国」についても、幹部の演説や機関誌などでミャンマーに言及することはあるものの、あくまで侵略を受けている土地の一つとして例示するにとどまり、同国の問題を主要な関心事としているようには思われない。最近の同派の週刊誌でも、ミャンマーの問題は「イスラーム国」の活動とは直接関係のない「世界のニュース」を扱う欄に掲載された。

 今後、ミャンマーにイスラーム過激派が浸透する可能性については、過去にアフガン、パキスタン、チェチェン、イラク、シリアなどでのイスラーム過激派の活動に、ミャンマーからどの程度人員が参加してるかが、可能性の高低を判断する材料の一つとなろう。インターネットなどを通じた扇動や勧誘が注目されてはいるものの、実際にイスラーム過激派が構成員を選抜・教化したり、個人が自らの生命や財産をイスラーム過激派に委ねたりする場合、直接の人的な交流の有無が決定的な要因となるからだ。また、イスラーム過激派やその支持者は、攻撃対象として先進国の国民や権益、特に白人のキリスト教徒を重視する傾向があり、ミャンマー、ウイグルなどムスリムに対する「侵略・迫害」の例に事欠かないといえども、アジア系の諸国民や権益への脅迫・煽動・攻撃への反響はあまり高くない。この傾向が続くならば、ミャンマー領内で国際的なイスラーム過激派が関与する攻撃などが発生する場合、同国に駐在する先進国の外交団や企業などを巻き込む形の攻撃が企画される恐れがある。また、ミャンマーとは関係の薄い遠隔地での誘拐事件などの広報で、この問題が言及される可能性も想定される。

 

(イスラーム過激派モニター班)

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