中東かわら版

№92 「イスラーム国」の生態:「イスラーム国」の妻子たち

 2017年9月12日付『ハヤート』(サウジ資本の汎アラブ紙)は、『ロイター』紙の記事を基に、イラク政府が「イスラーム国」に占拠された地域を解放する過程で、同派の戦闘員の妻子と思われる女性や子供を1000人以上捕らえたとして要旨以下の通り報じた。

 

l  イラク当局は、モスル、タルアファル解放後、「イスラーム国」の戦闘員の妻子と思われる外国人1400人を捕らえた。

l  彼女らのほとんどはトルコ経由でイラク入りした。多くはタジキスタン、ウズベキスタン、ロシアのような旧ソ連諸国の者と思われるが、アジア諸国出身者、フランス、ドイツなどの出身者もいる。

l  これらの者たちは、もともと所持していた旅券などを今や持っていないため、イラクの諜報当局が国籍の確認作業を行っている。彼女は無辜の者たちを酷薄にも殺戮した犯罪者の家族であるものの、イラク当局は彼女たちを良好な待遇で処遇している。これらの者たちは、尋問に対し「イスラーム国」の過激な主張は自分たちに害を与えたと答えている。

l  イラクの内務省は、彼女たちの送還について出身国の大使館と協議しようとしている。これまでに、少なくとも13の国籍が判明している。

l  西側諸国は、「イスラーム国」の崩壊後に戦闘員やその親族が戻ってくることを懸念している。フランスの当局者は、過激派との関与が確かなフランス人についてはイラクで裁判を受けさせるとの方針があると指摘した。

 

評価

 イラク当局が捕らえた「イスラーム国」戦闘員の家族の中には、日本人も含まれるとの報道がある。過去には「イスラーム国」のために活動した容疑者や、同派に合流しようとしてトルコに向かった者に日本人の妻子が同行していたとの報道もあるため、そうした者の一部がイラク当局に捕らえられた可能性は十分ある。

 イラクやシリアに密航して「イスラーム国」に合流した者には、性別や年齢を問わずなにがしかの役割を与えられている模様である。例えば、未婚の女性は戦闘員に「妻」としてあてがわれて彼らの性的欲求を充足させる役割を持つ。戦闘員の「妻」たちは、「ヒズバ」と呼ばれる風紀警察などの要員として、地元民の日常生活を監視・抑圧する職に就いたり、SNS上で外国人向けのメッセージを発信し、彼らを「イスラーム国」へと誘導する活動を行ったりしている。子供についても、しばしば報道されたように、敵対勢力の構成員を処刑するなど、「イスラーム国」の広報に「出演」した者がいたほか、「イスラーム国」によって次世代の構成員としての「教育」を受けている者もいることだろう。そして、こうした外国人が「イスラーム国」の合流した際に居住する住居、利用する社会資本は地元住民を殺戮・追放して用意したものであるし、何よりも彼女たちの生活の糧そのものが、地元住民からの収奪、天然資源・文化財などの密輸、外部からの違法な資金持ち込みなどに依拠している。

 また、「イスラーム国」に合流すること自体が、建前の上では「不信仰な世界」と絶縁して「信仰の世界」への移住と位置付けられており、年齢・性別・組織内での役割を問わず、「イスラーム国」の構成員は同派の犯罪の一端を担った者とみなすべきである。強制的に「妻」にされた者もいると思われることから、そうした者を峻別する作業が必要となるだろうが、「イスラーム国」の妻たちについても、イラクやシリアで問責・処罰することは類似の運動を発生させないためにも極めて重要である。

(イスラーム過激派モニター班)

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