中東かわら版

№91 カタル:クウェイトによる断交危機の仲介と米国の立場の変化

 発生から3カ月が経過したカタル断交危機に関して、クウェイトによる仲介が動きを見せている。9月6日から米国を訪問しているクウェイトのサバーフ首長は、7日にトランプ大統領と会談し、二国間関係の強化、地域情勢について協議した。

 会談後の共同記者会見において、トランプ大統領は、カタル断交危機におけるクウェイトによる仲介努力を評価するとともに、GCC諸国とエジプトにテロリストを打倒することに集中するよう呼びかけ、カタル、サウジ、UAE、バハレーン、エジプトのいずれも米国に不可欠なパートナーであると述べた。また、同大統領は、自身がUAE、サウジとカタルとの仲介者となる用意があることを明かした。また、サバーフ首長は、カタルへの要求13項目について、カタルは全ての要求を協議する用意があると伝達してきていることを明かすとともに、要求の大部分は解決がなされることを確信している、一部分については主権に関わるため受け入れられられないかもしれないと述べた。

 同日夜、サウジ、UAE、バハレーン、エジプトの4カ国は共同声明を発出し、クウェイトによる仲介への謝意を表明し、カタルに要求13項目を受け入れる用意があるとの発表を歓迎した。一方で、同共同声明は、交渉は前提条件なしで始められるべきであり、4カ国がボイコットを解除しない限り交渉を行わないという態度をカタルが表明していることは、対話に真剣でない証左であると主張している。また、サバーフ首長が記者会見で「我々は(仲介により)軍事行動を止めることができた」と述べたことに対しては、同共同声明内において「軍事的な選択肢はこれまでも検討されていないし、これからも検討しない」と反論している。

 

評価

 カタル断交危機は長期化する様相を見せているものの、当初から仲介にあたっていたクウェイトが米国を訪問したことは、解決に向けた重要なステップの一つだろう。トランプ政権は断交危機発生直後、サウジ・UAE側の肩を持つ姿勢を示したが、徐々に立場を修正していき、中立的な位置にまで戻りつつある。特に、親サウジ・UAEの立場を示しているトランプ大統領が、サバーフ首長との会談後、事態の収束に向けて肯定的なメッセージを出したことは、大きな変化である。サウジ・UAEによるカタル傍系王族の擁立という危険な兆候が続くなか、米国がGCCの融和を求めたことも、サウジ・UAEの行動を牽制する作用があるだろう。

 仲介者であるクウェイトは双方の直接会合の場をセッティングすることが事態の解決に資すると考えているようであるが、今のところ、すぐさま会合の場がもたれるということはなさそうだ。カタル側はボイコットが継続されたまま交渉に臨むことは否定しており、4カ国側はボイコットの解除を検討していない。今後も事態のエスカレートは抑えられつつも、最終的な解決には時間を要するだろう。

 

・カタル断交に関連する中東かわら版は以下を参照

「カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾」『中東かわら版』No.38(2017年5月25日)

「カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶」『中東かわら版』No.45(2017年6月5日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する周辺国の動き」『中東かわら版』No.47(2017年6月6日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する域外大国の動き」『中東かわら版』No.49(2017年6月7日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶を巡る情勢」『中東かわら版』No.51(2017年6月8日)

「カタル:経済封鎖の一部緩和」『中東かわら版』No.55(2017年6月16日)

「カタル:サウジ等4カ国がカタルに対し要求リストを提出」『中東かわら版』No.60(2017年6月23日)

「カタル:サウジ等4カ国による断交措置の継続」『中東かわら版』No.65(2017年7月6日)

「カタル:断交危機の解決に向けた動き」『中東かわら版』No.72(2017年7月24日)

「カタル:サウジによるカタル王室分断工作」『中東かわら版』No.83(2017年8月18日)

 

(研究員 村上 拓哉)

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