中東かわら版

№86 アフガニスタン:アメリカの新戦略とターリバーンの反応

 2017年8月21日、アメリカのトランプ大統領は、安全保障上の脅威が大きいとしてアフガニスタンに対する新戦略を発表した。新戦略は、アフガンでの戦闘へのアメリカ軍の関与を強化し、数千人規模の増派を行うこと、ターリバーンの封じこめのためにパキスタンに行動を促すこと、アフガンの「民主国家の建設」へのアメリカの関与を否定し、同盟国に一層の負担を求めること、などを骨子としている。

 これに対し、ターリバーンは22日付で報道官談話を発表し、新戦略はアフガンの現実を理解せず、戦争を長期化させるものだと論評した。談話はアフガン人民は今後も独立獲得とイスラーム体制樹立のために倦むことなくジハードを続けると表明する一方、「アフガンは誰の脅威でもないし、アフガンの地から誰かを害したこともない」と主張した。

 

評価

 新戦略の特徴は、2001年のアフガン侵攻以来重視されてきたアフガンの政府や治安部隊の育成よりも、アメリカ軍が「テロリスト」を討伐することを重視している点であろう。ただし、新戦略に基づくアメリカ軍の増派の規模や時期は公表されない。ターリバーンは、今期の春季攻勢開始宣言で表明したとおり、政治・社会面でも影響力を拡大する方針であり、現在のアフガン政府やそれを支援する各国を軍事的に打倒する成算がある模様だ(中東かわら版2017年20号)。実際、現時点でアフガン政府が掌握している地域は、欧米諸国の報道でも国土全体の6割を切っているとされる。現地では、アフガン政府の退潮はさらに進んでいる可能性がある。

 ターリバーンは、西側諸国やその同盟者との闘いを「イスラーム体制を樹立するための闘いであるとともに、祖国を解放する闘い」と位置付けており、闘いを専ら「信仰対不信仰」と位置付ける「イスラーム国」と大きく異なる。この違いは、アフガンの地縁・血縁・慣習などとの両者の結びつきの強弱を示しており、現地の社会との結びつきが弱いだけでなくそれを否定しようとする「イスラーム国」がターリバーンを凌駕することの難しさを示唆している。そうなると、中長期的なアフガン政策を考える場合、最大の課題はターリバーンであり、同派よりも求心力のある統治体制を確立することこそが、アメリカだけでなくアフガン自身の課題である。今般の新戦略はこの課題についての展望を欠いており、戦略というよりは当座の戦術としての性格が強いといえよう。

(イスラーム過激派モニター班)

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