№85 イラン:議会が第二期ロウハーニー政権を信任
- 2017湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2017/08/23
8月5日から二期目に入ったロウハーニー政権について、8月20日に議会で信任投票が行われた。17人が新政権の閣僚として指名されており、エネルギー相に指名されていたハビーボッラー・ビータラフ元エネルギー相(1997-2005)を除く16人が信任された。なお、科学・研究・技術相についてはまだ大統領による指名がなされていない。
注目の人事としては、国防相に国軍出身のアミール・ハータミー副国防相が指名されたことが各種メディアで話題になっている。革命防衛隊出身者ではない人物が国防相に就任するのは24年ぶりのことである。ハータミーは若い頃にバスィージとしてイラン・イラク戦争に従軍した経験はあるものの、大学卒業後は国軍に入隊しており、以後は国軍で軍人としてのキャリアを積んできた。
第二期ロウハーニー政権の閣僚リストは以下のとおり。
役職 | 名前 | 信任/不信任 | 留任/新任;備考 | |
1 | 外相 | モハンマド・ジャバード・ザリーフ | 236/26 | 留;外相(2013.8-)232/36 |
2 | 国防軍需相 | アミール・ハータミー | 261/10 | 新;副国防相(2013-2017.8)、副参謀総長(2011-2013) |
3 | 情報相 | マフムード・アレヴィー | 252/22 | 留;情報相(2013.8-)227/38 |
4 | 道路・都市開発相 | アッバース・アーホンディー | 188/75 | 留;道路・都市開発相(2013.8-)159/107 |
5 | 通信・IT相 | モハンマド・ジャバード・アーザリー・ジャフルミー | 152/120 | 新;通信技術インフラ社会長(2016.5-2017.8) |
6 | 石油相 | ビージャン・ナームダール・ザンギャネ | 230/35 | 留;石油相(1997-2005, 2013.8-)166/104 |
7 | 工業・鉱業・商業相 | モハンマド・シャリアトマダーリー | 241/25 | 新;行政担当副大統領(2013-2017.3, 2017.5-) |
8 | 教育相 | モハンマド・バトハーイー | 238/35 | 新;副教育相(2014.7-2016.10)、教育相代行(2016.10-11) |
9 | 文化・イスラーム指導相 | アッバース・サーレヒー | 242/25 | 新;副文化・イスラーム指導相(2013-2017)、文化・イスラーム指導相代行(2016.10-11) |
10 | 内相 | アブドルレザー・ラフマーニー・ファズリー | 250/25 | 留;内相(2013.8-)256/19 |
11 | スポーツ・青年相 | マスウード・ソルターニーファル | 225/39 | 留;スポーツ・青年相(2016.11-)193/72 |
12 | 農業ジハード相 | マフムード・ホッジャティー | 164/94 | 留;農業ジハード相(2013.8-)177/81 |
13 | 協同・労働・社会福祉相 | アリー・ラビーイー | 191/79 | 留;協同・労働・社会福祉相(2013.8-)163/100 |
14 | 保健・治療・医療教育相 | ハサン・ガーズィーザーデ・ハーシェミー | 253/18 | 留;保健・治療・医療教育相(2013.8-)260/18 |
15 | 司法相 | アリーレザー・アーヴァーイー | 244/18 | 新;最高裁判事(2014?)副内相(2014?) |
16 | 経済・財務相 | マスウード・カルバーシアーン | 240/31 | 新;副経済・財務相(?-2017.8)、税関総裁(?-2017.8) |
エネルギー相 | ハビーボッラー・ビータラフ | 133/132 | 不信任 | |
科学・研究・技術相 | 未指名 |
注:太字は新任。備考欄にある閣僚経験・就任時期の後ろにある数字は、閣僚就任時の議会の信任/不信任数。
出所:Tehran Times などを基に筆者作成
評価
2013年に一期目のロウハーニー政権が発足した際には、指名した18人のうち3人の閣僚(科学・研究・技術相、スポーツ・青年相、教育相)が議会で不信任とされた。その後も大臣人事を巡る政府と議会との対立は解消せず、正式に大臣が決まるまで2、3カ月を要することになった。これに対し、今回不信任となったのはエネルギー相のみである。第一期で人事問題が政治化した科学・研究・技術相のポストに関しては棚上げされたままだが、第二期政権は前期よりも安定することが予想される。前期政権の各閣僚の信任投票と今期を比較すると、今期は前期より20票前後信任票が多く、不信任票が少なくなっている。
信任された16人の閣僚のうち、ザリーフ外相やザンギャネ石油相など9人が前政権から留任し、7人が新任となっている。もっとも、7人のうち4人は副大臣を務めていた省の大臣に昇格するかたちになっており、基本的な政策方針は第一期のものを踏襲することになるだろう。
しかし、大統領選においてロウハーニーに協力した改革派は、今回の閣僚人事に不満を募らせている。一期目発足時は議会内の保守強硬派勢力が強く、閣僚人事においても圧力がかけられた。だが、2016年2月の議会選挙、そして今回の大統領選でロウハーニーは勝利したため、新政権は前期より改革派寄りの人事が可能だと見られていた(両選挙の詳細と人事に関する展望は以下を参照。「イラン:第10期国会議員選挙・第5期専門家会議議員選挙の実施」『中東かわら版』No.175(2016年3月1日)、「イラン:ロウハーニー大統領の再選が確定」『中東かわら版』No.32(2017年5月20日))。それにも関わらず、政権の顔ぶれに大きな変化がなかったことは、改革派を失望させている。特に、選挙戦で女性の活躍を強く主張していたロウハーニー大統領が、女性の閣僚を1人も指名しなかったことは、改革派から批判を浴びることになった。
8月16日朝、改革派の指導者であり自宅軟禁状態にあるキャッルービー元国会議長は、新たに情報省の諜報員が自宅に配置され、監視カメラが設置されたことに抗議して、ハンガー・ストライキを開始した。17日、ハーシェミー保健相(当時は候補)が病院に運ばれたキャッルービーと面会し、政府はこれを解除させると約束した。キャッルービー並びにムーサヴィー元首相の自宅軟禁の解除は改革派の悲願であるが、政権運営からの排除に加えてこれらの要望にもロウハーニー政権が十分な対応を行わなければ、改革派による政権の支持が離反していくことになるだろう。
(研究員 村上 拓哉)
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