中東かわら版

№81 イラン:シャーフルーディー前司法権長が公益判別評議会の議長に就任

 8月14日、ハーメネイー最高指導者は、1月のラフサンジャーニー元大統領の死去以来空席となっていた公益判別評議会の議長に、マフムード・ハーシェミー・シャーフルーディー前司法権長を任命した(ラフサンジャーニーの死去については「イラン:ラフサンジャーニー元大統領の死去」『中東かわら版』No.155(2017年1月10日)。任命にあたり、ハーメネイー最高指導者は、評議会の構造改革を進める必要があると述べ、評議会のあり方の見直しを要求した。

 公益判別評議会は、最高指導者の諮問機関であるとともに、議会と監督者評議会の間で法案について意見の不一致が生じた際にこれを最終的に裁定する権能を担っている。メンバーは、大統領、国会議長、司法権長、監督者評議会のイスラーム法学者に加え、議題に関係する閣僚や議会内の委員会の委員長などが適宜選出される。

 新たに議長に就任したシャーフルーディーは現在68歳、イラクのナジャフ出身である。シーア派の法学者としてムハンマド・バーキル・サドルの下ナジャフで学問を修めた。2010年からは大アーヤトッラー(シーア派におけるイスラーム法学の最高有識者。マルジャエ・タグリード)を自称している。シャーフルーディーは1979年のイラン・イスラーム革命後にイランに移住し、1999年から2009年まで司法権長を務めるなど、イラン司法界・政界にて大きな役割を担ってきた。2011年7月には、新たに設置された三権間調整・調停最高委員会の委員長に任命され、三権間の相互協力の促進に努めてきた。次期最高指導者の候補の一人とも評されているほか、2012年にはイラクにおけるシーア派の最高権威であるアリー・シースターニーの後任となると噂されたこともある。1999年から専門家会議のメンバーでもあり、2016年5月には専門家会議の議長選に出馬したものの、ジャンナティー監督者評議会書記に敗れた。同日の副議長選では第二副議長に当選している(詳細は「イラン:第5期専門家会議の議長にジャンナティー監督者評議会書記が選出」『中東かわら版』No.32(2016年5月25日)

 

評価

 シャーフルーディーが公益判別評議会の議長に就任したことについて、改革派に対して保守派の勢力が伸張しているとする見方がある。しかし、シャーフルーディーはいわゆる保守強硬派(ないし原則主義派)とされる勢力とは距離を置いており、むしろ中立的な立場に近い。2016年の専門家会議議長選においても、シャーフルーディーは保守強硬派と改革派の双方が受け入れ可能な候補だと評されたように、特定の勢力に偏る人物ではないというのが大方の見方である。一方、その議長選では当選したジャンナティーの51票に対し13票しか集められなかったことが示しているように、確固とした政治基盤を有しているわけではない。また、シャーフルーディーは前任のラフサンジャーニーとも関係が近かったとされている。今回の議長就任によって、公益判別評議会内の政治勢力図に大きな変化は生じないだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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