中東かわら版

№78 レバノン:イスラーム過激派の掃討が進む

 

 7月半ばから、ベカーウ高原東端のアルサール荒地を占拠していた「ヌスラ戦線(現「シャーム解放機構」)」の掃討が行われた。「ヌスラ戦線」は、同派の戦闘員や家族約9000人をシリアのイドリブ県に退去させること、同派が捕らえていたヒズブッラーの者5人を引き渡すことなどを条件に停戦し、一連の過程は8月4日までに完了した。掃討は、ヒズブッラーが主に行い、シリア軍が空爆や隣接するシリア領側での「ヌスラ戦線」の掃討を行うなどして支援した。

 

評価

国家の機構の外で軍事力を擁する上、シリア紛争に介入してシリア領でも作戦行動を行っているヒズブッラーが掃討作戦を担ったことは、レバノン政界で少なからぬ批判を招いた。レバノンでは、2016年11月におよそ2年半ぶりに大統領の空位が解消、12月にサアドッディーン・ハリーリー内閣が成立するなど、国政運営が正常化に向かいつつあるが、ヒズブッラーをはじめとする各政治勢力間の対立が解消したわけではない。

このため、今後もベカーウ高原の一角を占拠する「イスラーム国」の掃討、国家予算の編成、政府・裁判所・軍などの幹部職員の任命、経済・財政再建のための計画の策定のような課題に対し、レバノンの国家が迅速に対応できる保証はない。「ヌスラ戦線」、「イスラーム国」に代表されるイスラーム過激派の存在は、レバノン国内に多数滞留しているシリア人難民の中や、彼らの居住地にイスラーム過激派が浸透しているとの治安上の不安を惹起し、シリア人難民に対する嫌悪の高まりという社会問題をも招いている。シリア人難民を迅速に帰還させることはレバノンの政治・社会の両面で重要な課題ではあるが、レバノン政府内での意見の対立により、帰還実現のためにシリア政府と連携するか否かという初歩的な意思統一もできてない。

 また、「イスラーム国」の掃討はレバノン軍が行う見通しであるが、こちらについてもシリア政府・軍と連携し、レバノン側とシリア側の両方から攻勢をかけることができるかは定かではない。

(髙岡上席研究員)

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