中東かわら版

№75 イスラエル・パレスチナ:聖地をめぐる緊張(2)

 東エルサレムの聖地をめぐる緊張は、一段落した。イスラエル警察は、27日午前中までに7月14日以後に設置した金属探知機や監視カメラなどの撤去を終了した。聖地を管理するワクフ庁は、前日の26日にエルサレム警察長官らと協議を行った際に、撤去すべき設備のリストを渡していた。14日以降に設置した警備関係設備を撤去したイスラエル警察は、27日午後、聖地に入るすべての門を再開放した。こうした動きを受けてワクフ庁関係者とパレスチナ人イマームらが協議を行い、イスラエル警察が7月14日以降に設置した設備をすべて撤去した結果、聖地の現状復帰が図られたと判断し、イスラーム教徒らに、27日夕方から聖地内での礼拝を行うよう呼び掛けた。パレスチナ自治政府のアッバース大統領も、ワクフ庁とイマームの判断を受けて、パレスチナ人に東エルサレムの聖地内での礼拝を再開するよう呼び掛けた。

 27日夕方から、数千人のパレスチナ人が東エルサレムの聖地境内に入り、建物の上にパレスチナ国旗などを掲げて、金属探知機など設備撤去を勝ち取ったことで気勢をあげた。その後、境内のパレスチナ人とイスラエル警察の衝突が発生し、パレスチナ人113名が負傷している。

評価

 イスラエルとパレスチナの間の聖地をめぐる軋轢は、7月14日以前の状態に戻った。27日夕方に聖地境内で、イスラエル警察とパレスチナ住民の衝突が起きたが、このような衝突は、7月14日以前もあったし、今後もあるだろう。しかし、7月16日以降約2週間近く続いた、イスラーム教徒が聖地内への立ち入りを拒否し、聖地外で礼拝を行うような特異な状況は解消された。また世界のイラーム教徒が、エルサレム旧市街にあるイスラームの第三の聖地の状況に関して強い危機感を持つような事態は一段落した。ただパレスチナ側は、28日(金曜日)に、大規模な抗議行動を計画しており、新たな衝突が発生する可能性はある。イスラエル警察、イスラエル軍は、金曜日に衝突が増加するとして警備を強化している。

 イスラエル政府は、イスラエル軍や国内治安を担当するシンベドの進言を受けて、パレスチナ、ヨルダン側が納得する形での「現状維持」復帰を行った。これは聖地問題を宗教問題にしないための賢明な対応であるが、イスラエルの一部の右翼・極右政治家らは、政府の対応を弱腰と非難している。今回の措置に不満を持つイスラエル極右活動家や入植者らが、過激な行動を取るようであれば、聖地をめぐる緊張は別の形で再び高まるだろう。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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