中東かわら版

№74 リビア:フランスの仲介で停戦合意

 7月25日、パリ郊外で、マクロン仏大統領の招待により、サッラージュ国民合意政府(GNA)首相とハフタル・リビア国民軍(LNA)総司令官が会談を行った。会談には、7月に国連リビア支援ミッション(UNSMIL)代表に就任したばかりのガッサーン・サラーマ氏も同席した。

 会談後の共同声明で、サッラージュ、ハフタル両氏が、停戦と議会・大統領選挙の実施をはじめとする10項目につき合意したと発表された。なお、今次会談はこれまでにUAE、エジプト、チュニジア、アルジェリアによって仲介された協議の延長で行われたと説明された。合意内容は以下の通り。

1.リビア危機は政治的解決以外に解決策はない

リビアの全政治勢力、軍事勢力、国家機関が国民和解プロセスに参加する

移行期正義、補償、恩赦、国内治安措置(停戦合意、非武装化、テロ対策)を実施する

2.停戦と、あらゆる形態の武力使用の拒否を遵守する

3.リビアにおける法の支配、主権・市民的・民主的国家の建設に関与する

平和的な権力移譲、人権の尊重、国家機関の統合(中央銀行、国営石油会社、リビア投資庁)

4.2015年12月17日のリビア政治合意を履行し、2017年5月3日のアブダビ会談(注)の延長線上で政治対話を継続する

5.国連リビア支援ミッション代表の業務に協力する

6.今次会談後も対話を継続し、選挙実施が可能となる態勢づくりに努力する

7.正規軍への加入を望む戦闘員の統合に努力する

非武装化、非動員化、市民生活への再統合

8.リビアの領土を脅威と密輸から守るための行程表を作成する

9.議会選挙、大統領選挙の実施に向けて努力する

10.国連安全保障理事会に対し、本声明を支持するよう呼びかける。また国連リビア支援ミッション代表に対し、リビア諸勢力と必要な協議を主催するよう呼びかける

(注)ムハンマド皇太子兼軍最高司令官の仲介の下、アブダビで、サッラージュ首相とハフタル総司令官が直接会談を行った。GNA執行評議会の改編・縮小、リビア政治合意8条の削除、選挙の実施、テロとの戦い、外国勢力の介入の拒否、武装勢力の非武装化、不法移民のリビア定住の拒否などで合意した。

 

評価

 リビア内戦終結に向けて、サッラージュGNA首相とハフタルLNA総司令官が直接会談を行ったのは、2016年1月のマルジュ会談(リビア東部)、2017年5月のアブダビ会談であり、今回で3回目となる。今次合意の内容は、2015年12月の「リビア政治合意」とほぼ同じである。

 新しい要素は、ハフタルが欧米諸国側のフランスが主催する会談に参加したことである。ハフタルはエジプト、UAE、ロシアなど東部政府を支持する国々から会談に招かれたことはあるが、EUや欧米諸国によるリビア関連会合に招かれたことはなかった。対立する東西勢力の仲介努力は、主に国連(UNSMIL)、エジプト、チュニジア、アルジェリア、UAEが行ってきたが、ここに来てフランスが仲介に参入した理由は、フランス内政にとってテロ対策が重要課題であること、ルドリアン外相が前オランド政権での国防相時代からハフタルを対話に組み込むことを支持していたことが関係していると考えられる。フランス軍はLNAによるベンガジでのイスラーム過激派掃討作戦に諜報面で協力しており、LNAと一定のパイプがある。これまで欧米諸国側の会合から排除されていたハフタルは、フランスの招待によって自身が欧米諸国から正式な交渉相手と見なされたと理解し、直接会談だけなく停戦合意も受け入れたのかもしれない。

 しかし、今次合意が遵守され、停戦が実現すると楽観視はできないだろう。第一の理由は、今次合意は停戦と国家統一、国民和解という原則合意が記された2015年12月のリビア政治合意と変わらず、停戦に向けた具体的手続きや日程、合意を破った場合の具体的な制裁内容、仲介者による合意履行の保証、などが含まれていない。合意に実効力を持たせるメカニズムが存在しない。ハフタルには欧米諸国の正統な対話相手という「名誉」が与えられ、GNAとの関係でさらに良い立場を与えられた感さえある。仮に停戦努力を行わず、仲介したフランスとの関係が悪化したとしても、LNAはエジプト、UAE、ロシアの支援を得られるだろう。

 第二の理由は、サッラージュ、ハフタル共に、東西それぞれの民兵組織を非武装化できない可能性が高いことである。GNAは西部地域はおろか、トリポリ市内の民兵組織さえも統制できず、トリポリ市内でのGNA支持派民兵と反GNA派民兵の戦闘を止めることができない。またGNA支持派の民兵組織といえども、サッラージュ首相の命令に従うほどGNAに忠誠を誓う関係ではない。反GNA派民兵組織はグワイル元首相を支持する民兵が多く、今次会談に代表されていない勢力であるため、彼らが非武装化に反対することは明白である。ハフタルはこうした西部の動きを見て、東部の民兵組織の非武装化にどの程度関与するかを決めるだろう。民兵組織の非武装化が進まなければ統一国軍・警察は結成されず、テロ組織に対する掃討作戦や、密輸・不法移民対策の効果的な実施は先送りされたままとなるだろう。

(金谷研究員)

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