中東かわら版

№72 カタル:断交危機の解決に向けた動き

 カタル断交危機の解決に向けて、仲介の動きが進んでいる。7月10日から13日、ティラーソン米国務長官はクウェイト、カタル、サウジアラビア、カタル(2回目)を訪問し、事態の解決に向けて仲介を行った。カタル訪問では、テロ対策に関する了解覚書(MOU)が結ばれたものの、サウジ等4カ国はこれを「不十分」と評した。また、15日・16日にはルドリアン仏外相がカタル、サウジ、クウェイト、UAEを訪問し、同じく仲介を行った。7月23日にはトルコのエルドアン大統領がサウジアラビアを訪問し、サルマーン国王、ムハンマド皇太子と会談した。同日、エルドアン大統領はクウェイトに移動した。24日はカタルを訪問する予定となっている。

 これらの外交的な動きに並行して、7月20日には、カタルでテロ対策法の改正が行われた。これについて、UAEのガルガーシュ外務担当国務相は「ポジティブな動き」と肯定的に評価した。6月5日の断交以来、4カ国の政府高官がカタルの行動について前向きな評価をしたのは初めてのことである。

 

評価

 域外国の介入を拒否する姿勢を示していた4カ国が、断交危機発生から1カ月を経てこれを受け入れるように立場を変えたことは、事態の解決に資する動きと言えよう。特に、カタル寄りの立場を明らかにしてきたエルドアン大統領の訪問をサウジが受け入れたことは、大きな変化である。問題の発生以来トルコは合同訓練のためと称してトルコ軍を断続的にカタルに派遣しており、外交上の紛争が軍事化する懸念が囁かれていたが、サウジ側もそうした事態の過熱化は望んでいないものと見られる。米国が政府内の意見の相違を乗り越えて、本格的に仲介に乗り出したことも、重要な動きである。仲介者として承認を受けているクウェイトと共同歩調をとるほか、中立の立場を貫くオマーンに接近を図っていることは、米国が事態の解決を真剣に追求している証左であろう。

 とはいえ、こうした仲介が局面を大きく動かす可能性はあまり高くない。今回の危機を通じて明らかになりつつあることは、サウジ等は威信や体面をかけてカタルと争っているのではなく、カタルへの実際的な対応を求めているということである。ティラーソンの湾岸訪問直前に2013年のリヤード合意および2014年のリヤード追加合意がリークされたことで、カタルに対してエジプト批判につながるメディアの規制や非市民のムスリム同胞団員の国外追放など、対象や措置について明確に言及されていたことが明らかになった。今回もサウジ等4カ国はカタルに対しリヤード合意の履行を求めていたが、こうした具体的な規定が既にあり、この履行状況を巡って紛争が起きている以上、今回の危機を努力目標にとどまるような形式的な合意で幕引きを図ることはないだろう。7月19日にサウジのムアッリミー国連代表は、当初リークされた要求13項目に挙げられたAl-Jazeeraの閉鎖について、閉鎖以外の手段で目標が達成されるのであれば問題ないという見解を示し、7月5日に発表された6原則の目的が達成されることが重要だと述べた。これは一部メディアで4カ国の姿勢の軟化と報じられたが、むしろサウジ等は当初から一貫してカタルに具体的な対応を求めており、要求13項目は交渉における駆け引きの材料が含まれたものだったと理解する方が適切だろう。

 原則的な立場で妥協する可能性の乏しい4カ国であるが、危機を長引かせることは経済面のみならず政治的にも不利益となっている。7月16日、『Washington Post』は、5月末に発生したカタル国営通信へのハッキング問題について、米国の情報機関がUAEが背景にいると指摘した記事を出した。UAEはこれを否定したものの、7月21日にカタル内務省はハッキングに使われたIPアドレスがUAEのものであったと発表した。問題の解決が遅れるほど、こうした不都合な事実が次々と白日の下に晒されることになり、紛争当事者双方の国際的信用が更に低下していくことになるだろう。

 

・カタル断交に関連する中東かわら版は以下を参照

「カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾」『中東かわら版』No.38(2017年5月25日)

「カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶」『中東かわら版』No.45(2017年6月5日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する周辺国の動き」『中東かわら版』No.47(2017年6月6日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する域外大国の動き」『中東かわら版』No.49(2017年6月7日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶を巡る情勢」『中東かわら版』No.51(2017年6月8日)

「カタル:経済封鎖の一部緩和」『中東かわら版』No.55(2017年6月16日)

「カタル:サウジ等4カ国がカタルに対し要求リストを提出」『中東かわら版』No.60(2017年6月23日)

「カタル:サウジ等4カ国による断交措置の継続」『中東かわら版』No.65(2017年7月6日)

 

(研究員 村上 拓哉)

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