中東かわら版

№71 シリア:CIAによる「反体制派」支援停止

 2017年7月19日付『ワシントン・ポスト』紙(アメリカ紙)は、アメリカのトランプ大統領がCIAが行ってきたシリアの「穏健な反体制派」への武器供給・訓練事業の終了を決定したと報じた。

 アメリカ政府は、シリア紛争勃発後アサド政権の放逐を目指し「反体制派」を支援してきた。CIAは、2013年に「穏健な反体制派」の支援を開始したが、2015年にロシア軍がシリア紛争に直接介入してからは「穏健な反体制派」支援を通じたアサド政権放逐の見通しは疑問視されていた。トランプ大統領はおよそ1カ月前にこの事業の停止を決定したが、これは7月7日に行われたロシアのプーチン大統領との会談に先立つ措置だった。トランプ大統領は、シリア紛争についてロシアと協調する方策を模索しており、ロシア政府との合意を通じた「停戦地域」の拡大を目指している。

 

評価

アメリカによるシリアの「反体制派」への援助は、当初から「アサド政権を打倒するには過少、紛争を長引かせるには過大」な水準にあり、「穏健な反体制派」への支援はこれを象徴するものである。ただし、CIAを通じた支援事業が停止されたといっても、アメリカによるシリアの武装勢力への支援がすべてなくなるわけではない。アメリカ軍は、シリア北部ではクルド人を主力とする「民主シリア軍」を、イラクとの国境地帯でもほかの武装勢力を援助しているが、これらは停止しないようである。欧米諸国の政府や報道機関が期待をかけていた「穏健な反体制派」は、2012年中ごろにはシリアの民心を失った上、イスラーム過激派諸派に従属的な立場でしか存在しえないものだった。今般の動きも、あくまでアメリカとロシア、そして「穏健な反体制派」に拠点を提供しているヨルダンの間の関係として報じられており、シリア紛争の収束やシリア人民の利益という発想に乏しいように感じられる。

上記報道では、CIAによる「穏健な反体制派」支援の停止により、トルコやアラビア半島諸国による武装勢力への支援に統制がきかなくなること、「過激な」勢力の台頭を招きかねないこと、同盟者を見捨てる結果になることなどがアメリカにとっての懸念事項として挙げられている。もっとも、トルコやアラビア半島諸国は、カタルとサウジとの対立などシリア紛争とは別の懸案を抱えており、各国がシリア政府の打倒のために「反体制派」支援を強化する余力があるかは疑わしい。より現実的な問題としては、今後アメリカがどのようにして現在のシリア政府の存続を前提として「イスラーム国」対策やシリア紛争収束のための努力を進めるかということである。2017年4月の化学兵器使用問題を受けたアメリカ軍によるシリア軍への巡航ミサイル攻撃に象徴されるように、アメリカの政府・報道機関・世論にはシリア政府やイラン、ヒズブッラーなどの親政府勢力を「悪魔化」する雰囲気が強い。しかし、アメリカが現在の方向性でシリア情勢への対処を進めるのならば、これらの「悪魔のような」主体とも何らかの意思疎通や協調・妥協が求められることとなるだろう。アメリカをはじめ、長年シリア紛争に対し中途半端に関与してきた諸国は、政策や状況認識を変更する際に葛藤に直面するだろう。

(髙岡上席研究員)

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