中東かわら版

№66 パレスチナ:強まるガザのハマースのエジプト依存

 パレスチナ自治政府から財政的締め付け(ハマース系公務員への給与削減、ガザの発電所用の燃料購入停止、イスラエルから送電される電力の削減、医療関連予算の削減)などにより苦境に立たされたハマースは、エジプトに接近している。6月はじめにガザの政治局局長サンワールを団長とする代表団がエジプトを訪問、エジプト当局者と協議を行った。報道では、同代表団は、エジプト滞在中に、ファタハを追放されたムハンマド・ダハラーンらとの協議を行っている。ハマースとの協議を受けてエジプトは、6月21日からガザの発電所向けの燃料輸送を開始し、24日までに約100万リットルを送りこんだ。同燃料輸送は、その後も継続されている。ガザで操業を停止していた発電所が部分的に再稼働したことで、ガザの通電時間が1日1時間程度増えて、通電時間が1日3~4時間になるようだ。報道では、同燃料輸送はUAEが財政支援したとされるが、ハマースがエジプト側からの支援に対して代金を支払うことに合意したとの報道もある。エジプト側の動きに対応して、ハマースは6月28日からエジプトとの国境の監視体制を強化するため、第一期工事として約12キロメートルにわたり幅100メートルの緩衝地帯設置の工事を開始した。報道では、エジプトは9月からガザ・エジプト間のラファ境界事務所を恒常的に開放する準備を開始した。

 まだ公式には確認されていないが、報道では、ハマースとムハンマド・ダハラーンは、合同の「統治委員会」を設置することで合意した。ダハラーンが対外関係を担当し、ハマースは、ガザの治安を担当するとされる。

 7月はじめイスラエルやパレスチナは、熱波の襲来を受けている。ガザでの気温は7月4日には37度になったと報道されている。冷蔵庫が使えず、一般の市民は猛暑の中、冷たい水を飲むことも簡単ではないようだ。また電力不足のため下水が未処理で地中海に流されれており、ガザの海岸の大部分は水質悪化のため遊泳禁止になっている。ガザに隣接するイスラエル南部での海水汚染が深刻になりつつあり、イスラエルはガザ北部の汚水をイスラエル側で処理する準備を開始したと報道されている。

評価

 ハマースが、ガザの経済的苦境を脱するためにエジプトに接近するのであれば、エジプトが持っているハマースに対する治安上の不信感を一掃する必要がある。そのためには、国境管理の強化などエジプト側の諸条件を飲むしか選択肢はないだろう。エジプト側の条件の一つが、ムハンマド・ダハラーンとの和解かもしれない。

 ハマースと元ファタハ幹部ムハンマド・ダハラーンは宿敵関係にある。2007年にガザで武力衝突が発生したが、ハマースの戦闘員はパレスチナ自治政府の部隊あるいはファタハの戦闘員を攻撃したとの意識は薄く、ダハラーンの私兵を攻撃したと認識していたといわれている。今回、敵対関係にあるハマースとダハラーンが、ガザを共同統治することで合意したのであれば、パレスチナ内政上の大事件になるだろう。エジプトは、ダハラーンを支援しており、パレスチナに対して2つの和解(①自治政府とガザのハマース、②ファタハとファタハを追放されたムハンマド・ダハラーン)を求めているようだ。「水と油」の関係であるはずの両者が、パレスチナ自治政府(ファタハ)に対抗するために野合的な連合を組む場合、パレスチナ内部の権力抗争の構図はより複雑になる。アッバース大統領は、近くエジプトを訪問してシーシー大統領と会談して、エジプト側の真意を探ると報道されている。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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