中東かわら版

№65 カタル:サウジ等4カ国による断交措置の継続

 7月5日、カタルと断交したサウジアラビア、UAE、バハレーン、エジプトの4カ国はエジプトで外相会談を行い、6月23日に提示した要求リストに対するカタルからの返答について協議した(要求リストについては以下を参照「カタル:サウジ等4カ国がカタルに対し要求リストを提出」『中東かわら版』No.60(2017年6月23日)。会合後、共同声明が発出され、カタルからの返答が否定的で具体性に欠くものであったこと、要求については妥協も交渉もしないこと、そのため今後も断交措置を継続することが発表された。

 共同声明では、以下の6つの原則についての立場が強調された。

1.あらゆる形式での過激主義、テロリズムとの戦いおよび資金調達、安全地帯の提供の禁止への関与

2.憎悪や暴力を扇動する行為の停止

3.GCCの枠組みにおける2013年のリヤード合意および2014年のリヤード追加合意の履行

4.2017年5月にリヤードで開かれたアラブ・イスラーム・米国サミットでの決定の遵守

5.4カ国に対する内政干渉および犯罪者集団への支援の抑制

6.国際社会の平和と安定の脅威であるあらゆる形式の過激主義、テロリズムと戦うという国際社会のすべての国の責任

 

 共同声明によると、カタルへの要求はこの6原則への遵守を確保するという文脈で行われたものであり、カタルがこれまでに果たしてきた破壊的な役割はもはや容認できないとしている。また、4カ国はクウェイト首長による仲介努力、トランプ大統領のテロとの戦いにおける立場にそれぞれ謝意を表明した。また、状況をフォローアップするための次回の会合はマナーマで開催されると発表された。

 共同記者会見において、サウジのジュベイル外相は、(カタルに対する)次の手段について協議があった、我々は適切なときにそれを行うと述べ、カタルの政策が変わらない限り政治的・経済的ボイコットを継続すると表明した。

 さらに、ジュベイル外相はトルコが中立の立場を維持してくれることを望むと述べたほか、エジプトのシュクリー外相は非アラブ諸国による介入を拒絶する意向を示した。その後、トルコのエルドアン大統領は『France 24』とのインタビューにおいて、サウジ等による要求13項目は受け入れ可能なものではなく、カタル国内のトルコ軍基地閉鎖の要求を批判した。他方、カタル政府からの要請があれば、トルコは駐留を継続しない方針であるとも述べた。

 

評価

 6月5日から続くカタル断交危機は発生から1カ月を迎えたものの、大きく情勢が変わることなく2カ月目に突入することになった。

 要求についてはカタルにとって到底受け入れ難い内容が含まれており、カタルが要求全てに対応することがないというのは自明のことであった。カタルはどこまでの譲歩を示せるのか、そしてカタルの回答にサウジ等がどう対応するのかが焦点であったが、今回の一連の動きの中ではいずれも判然としないまま、現状維持という状況だけが残されている。当初の予想では、カタル側の不十分な回答に対してサウジ等が更なる封鎖措置を実施するという見方もあったが、ジュベイル外相の発言を見る限りではそれは先延ばしとなっている。次はマナーマで会合が開催されると発表されたが、これがいつ行われるものなのか、新たな措置の実施はそこで発表されることになるのか、いずれも不明である。

 また、今回示された6原則は、6月23日に提示された要求13項目といくつかの点でニュアンスが変化している。例えばトルコ軍基地やAl-Jazeeraの閉鎖、イランとの外交関係縮小の要求、賠償金の支払いについては、今回の声明からは必ずしも読み取ることができない。テロ支援を巡る問題についても表現が曖昧になっており、具体的な行動として何を求めているのかは分かりづらくなっている。もっとも、原則という表現が用いられていることから、これが要求13項目に代わるものであるかについては疑問も残る。

 他方で、こうした不透明性が出てきたことは、交渉が機能し始めている証左でもある。今回、カタル側の返答については内容が一切明らかにされておらず、共同声明、記者会見のいずれでも言及がなかった。4カ国による共同声明も具体性に欠くものであり、各国がカタルに何を求めているのか判然としない箇所が多い。お互いの要求など交渉内容が表に出ると、交渉参加者は妥協したと見られうる要求を呑むことが難しくなる。双方が事態の解決に真剣であるならば、今後、交渉は水面下で秘密裏に進められていくことになるだろう。

 

・カタル断交に関連する中東かわら版は以下を参照

「カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾」『中東かわら版』No.38(2017年5月25日)

「カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶」『中東かわら版』No.45(2017年6月5日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する周辺国の動き」『中東かわら版』No.47(2017年6月6日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する域外大国の動き」『中東かわら版』No.49(2017年6月7日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶を巡る情勢」『中東かわら版』No.51(2017年6月8日)

「カタル:経済封鎖の一部緩和」『中東かわら版』No.55(2017年6月16日)

 

(研究員 村上 拓哉)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP