№64 エジプト:燃料価格の引き上げ
政府は、2017/18年度(2017年7月~2018年6月)の燃料補助金予算の削減にともない、燃料価格の引き上げを下記のとおり発表した。今般決定は、シーシー大統領の就任直後に決定された経済改革プログラムの一つで、5年間で段階的に燃料補助金を削減する計画として行われた。2016/17年度の燃料補助金は1450億ポンドだったが、2017/18年度は1100億ポンドで予算に計上されている。
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(旧) |
(新) |
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ガソリン |
80オクタン |
2.35ポンド/ℓ |
3.65ポンド/ℓ |
+55% |
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92オクタン |
3.50ポンド/ℓ |
5.0ポンド/ℓ |
+42% |
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ブタンガス・シリンダー(家庭) |
15ポンド |
30ポンド |
+100% |
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(商業) |
30ポンド |
60ポンド |
+100% |
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車両用天然ガス |
1.6ポンド |
2ポンド |
+25% |
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都市ガス(家庭) |
0-30㎥/月 |
― |
1ポンド |
― |
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30-60㎥/月 |
― |
1.75ポンド |
― |
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60㎥以上 |
― |
2.25ポンド |
― |
他方、経済改革の国民への負担を軽減するため、政府は6月中に以下のような食料補助金、社会的セーフティー・ネット、公的年金、公務員給与の拡充などを発表した。
- 配給カードで購入できる補助金付き食料品の上限額の引き上げ
1人あたり月額21ポンド → 50ポンド(+138%)
配給カード保有者 7100万人(全人口の7割)
- 低所得者向け所得支援プログラム「タカーフル・ワ・カラーマ」の予算増額
2016/17年度 40億ポンド → 2017/18年度 82億5000万ポンド(+106%)
裨益者数 175万人
- 公的年金受給額を全体的に1割引き上げ
受給者数 900万人
- 新公務員法(2015年)の対象外である公的部門労働者の基本給を1割引き上げ
評価
エジプトでは2010年頃から、インフレ率は10%前後で推移していたが、昨年の変動相場制の導入から30%に上昇し、国民生活の大きな負担となっている。2011年から経済の低迷が続き、変動相場制の導入によってさらに国民への負担が増大したことは、国民の政府への評価をさらに低下させている。今回の燃料価格引き上げの発表を受けて、既にバスやタクシーの運賃値上げが始まり、パン製造業者からは製造コストの上昇にともなうパン価格の値上げが必要であるとの声も出ている。
現在、エジプトの公的債務残高は3兆4000億ポンド、GDP比103%に達し、政府はこれ以上の経済改革の先延ばしは不可能との立場を堅持している。経済改革の痛みについては社会的セーフティー・ネットで補いつつ、改革を進めていく方針である。しかし、所得水準が物価高騰に追いつかない現状において、国民はぎりぎりの生活を強いられている。貧困率は、2010年の25.2%から2015年は27.8%に上昇した。
このような国民の経済的不満が、大統領選挙をちょうど1年後に控えたシーシー政権にどのような影響を与えるのかという点が注目されるが、今後、国民を動員できる政治勢力が現れるか、政府がそのような勢力にどのように対応するか、に拠るだろう。現時点では動員能力のある政治勢力(社会運動、野党)が現れる兆しはほとんどなく、仮に偶発的に暴動が起きたとしても、政府はこれまで通り暴力で対応する可能性が高い。つまり、政府に対する不満が表出される場をもたないまま大統領選挙を迎えるか、反政府暴動の暴力的弾圧によって政治が不安定化するかのどちらかになると考えられる。
(研究員 金谷 美紗)
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