中東かわら版

№63 エジプト:ナイル川流域諸国の首脳級サミットがウガンダで開催

 6月22日、ウガンダ首都カンパラにてナイル・ベイスン・イニシアチブ(NBI:Nile Basin Initiative)の首脳級サミットが開催された。NBIはナイル川流域に位置する11カ国(エジプト、スーダン、南スーダン、エチオピア、タンザニア、ケニア、コンゴ民主共和国、エリトリア(オブザーバー参加)、ウガンダ、ブルンジ、ルワンダ)から成る地域機構である。今回、ケニアを除く10カ国がサミットに参加した。

 首脳級サミットは、1999年に同機構が設立されて以来始めての出来事である。また2010年からNBIでの活動を凍結しているエジプトにとっては、実に7年ぶりの参加となる。今回のサミットでは、2010年にNBIの6カ国が調印・批准し、下流のエジプトとスーダンが修正を要求した「協力枠組み協定」をめぐる上流国と下流国の対立の解消が主な議題となった。「協力枠組み協定」とは、上流国側の要請に基づき、ナイル川の利用や開発に関して流域全体の取り決めを定めたものである。

 各種報道によれば、サミット当日、エジプトのシーシー大統領は、①自国の水資源の現状と将来的な水不足に関し懸念がある、②ナイル川上流諸国における開発に参加する意欲がある、③水紛争を避ける、④自国の水資源はナイルに全面的に依存している、⑤次のサミットにもエジプトは参加する用意がある等の旨を述べた。また、同大統領は会合の場で「協力枠組み協定」の代替文書を提示したとされる。

 22日のサミットに続いて、23日には技術者間の会合と閣僚級の会合も行われたが、エジプトの使節団は欠席した。また、サミット終了に際してNBI名義の声明は出されていない。

評価

 

 これまで、NBIのサミットには、水資源やエネルギー分野を担う省庁の大臣や技術者が主に参加してきた。今回、シーシー大統領がNBIサミットに参加した背景には、人口増加に伴う国内の水資源需要の増加に加え、2011年からエチオピアで建設が始まったGERDダム(*)の存在がある。このダムは、エジプトに流入するナイル川の水量の80%とも90%以上ともいわれる水量を擁する青ナイル上で建設されている。これまでエジプトは、エチオピアに対してGERDの規模縮小や排水口の増設等を求めて交渉してきたが、未だ対立の解消に至っていない。2018年には、エジプト、スーダン、エチオピアから委託を受けたコンサルタント会社2社によるGERDの影響調査が終わる予定だが、貯水が先に始まる可能性が高まっている。

 一方、その他の上流国もエチオピアと同様に河川開発、特に水力発電を推進する意欲がある。エジプトにとっては、エチオピアを先例として上流諸国で開発が続けば、自国の水利権をさらに不安定化する状況を生み出しうる。シーシー政権にしてみれば、こうした状況を抑制するための手立てとして、今回のサミットに参加し、「協力枠組み協定」の交渉の主導権を握ろうとしたと考えらえる。

 なお、シーシー大統領が提出した代替文書の内容は公表されていないが、上流国がナイル川上で開発を行う際に下流国に事前通達すること、過去の協定に基づく下流国の歴史的権利を認めること、NBI内の決議を多数決ではなく全会一致にすること等が主張された模様である。これらの主張は、今までと同様の主張であり、上流諸国が拒否してきたものである。今回のサミットでも上流諸国からの支持が得られなかったことは十分予想される。だとすれば、エジプト側が閣僚級会合や技術者レベルでの会合を欠席し、サミットの声明が発出されていない状態にも納得がいく。今回の会合では、交渉の主導権を握りたいというエジプトの思惑は成功したとは言えないだろう。とはいえ、エジプトのNBIでの活動再開に加え、各国の首脳が、今回のサミットに参加したことで、ナイル川流域を協力的に管理、利用していく方向性が各国の間で再確認されたことは一つの成果といえるだろう。

 今後、NBIの各種会合にエジプトが参加することが予想される。その中で枠組み協定をめぐる交渉も進むと予想される。問題は、下流と上流の対立から、流域全体の利害調整にどのようにシフトしていくかである。エジプトにとってみれば、エチオピアのダム建設だけでなく、その他の上流諸国の開発を考慮した複雑な交渉が求められる。また、交渉が複雑になれば、その分利害も複雑に絡むため、ナイル川の問題が政治化しやすくなるだろう。

*:GERDダムに関しては、中東分析レポートGERD 建設と水利権を巡るエジプト、スーダンエチオピアの交渉を参照ください)。 

(研究員 西舘 康平)

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