中東かわら版

№61 エジプト:最高憲法裁判所がサウジへの2島引渡し合意に関する判決の執行停止を命令

 6月21日、エジプトの最高憲法裁判所は、ティーラーン島とサナーフィール島をサウジアラビアに引き渡す合意に関して出された全ての判決について、執行停止を命じる暫定命令を出した。全ての判決とは、行政司法裁による合意無効判決(2016年6月)と、この合意無効判決の執行差し止めを命じたカイロ緊急事項裁の判決(同年9月)の2つである。これら2つの矛盾する判決について最高憲法裁が判断を下すまで、いずれの判決の執行も停止するという暫定的な命令となる。

 最高憲法裁の「暫定命令報告」には、上記内容に加えて、2島引渡し合意は国家の最高主権に関わることで、司法が国際条約に関する問題を審理することはできず、行政裁であれ通常裁であれ主権行為に法的判断を下すことは禁じられていると書かれた。

 

評価

 最高憲法裁は判決執行の暫定的な停止を命じたものの、「報告」内で国家間合意という主権行為を司法が審理することはできないと書かれているため、2島引渡し合意について出された全ての判決は正式に無効となる可能性が高い。エジプト国内での合意に関する手続きは大統領の署名を残すだけとなっており、大統領署名が済めば、ティーラーン島とサナーフィール島は正式にサウジアラビアに引き渡される。

 行政司法裁が合意を無効とする判決を出した当初から、主権行為を司法が裁くことはできないという指摘が憲法学者からなされていた。最高憲法裁は司法審査の対象範囲にもとづく判断を下したことになり、必ずしも政府の言い分に擦り寄った判断とはいえない。最高憲法裁は、高度に政治性を有する主権行為の正当性にまで踏み込んで司法判断を下すことを避けたとも考えられる。

 なお、原告や合意に反対する活動家は、2島はエジプト領であると主張し、憲法151条にもとづく国民投票の実施を要求してきたが、エジプト政府は2島はもともとエジプト領ではなかったとの立場をとっているため、国民投票が実施される可能性は低いだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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