中東かわら版

№60 カタル:サウジ等4カ国がカタルに対し要求リストを提出

 6月23日朝、カタルと外交関係を断絶したサウジアラビア、UAE、バハレーン、エジプトの4カ国は、仲介役のクウェイトを通じてカタルに対して要求リストを提出したことが『AP』によって報じられた。

 『AP』の報道およびSNS上で広く拡散している要求リスト原文のコピーによると、要求内容は13項目で、主な内容は以下のとおり。

 

1. イランとの外交関係縮小、革命防衛隊関係者の追放、通商関係の制限(対イラン制裁や湾岸地域の安全に反しない範囲)

2. カタルにあるトルコ軍基地の閉鎖

3. ムスリム同胞団、「イスラーム国」、アル=カーイダ、シャーム解放機構(元ヌスラ戦線)、ヒズブッラーなどのテロ組織との関係断絶

4. 4カ国や米国、国際社会でテロリスト指定されている人物・組織への資金提供の停止

5.テロリストに指定されている人物の引渡し、資産の凍結、将来的な保護の禁止、情報の提供

6. Al-Jazeeraの閉鎖

7. 内政干渉の停止、4カ国の国民に対するカタル国籍付与の禁止と既に国籍付与した人物の引渡し、4カ国の国内の反体制派との連絡の遮断

8. 過去数年間、4カ国がカタルの政策により受けた被害に対する賠償金の支払い

9. 2013年のリヤード合意、2014年のリヤード追加合意の実行に基づく湾岸・アラブ諸国との調和

10. カタルが過去に支援した反体制派および支援の種類に関する情報の提供

11. カタルが直接・間接的に支援してきたメディア(Arabi21, Rassd, New Arab, Mekemeleen, Sharq, Middle East Eyeなど)の閉鎖

12. これらの要求への10日以内での対応

13. 1年目は月毎、2年目は3カ月毎、3年目以降から10年目までは年毎の報告書を提出

 

評価

 サウジ等によるカタルとの断交を巡っては、断交した側の意図が不明瞭であり、断続的に示される要求も多岐に渡っていたため、具体的にどの問題にどのように対処すれば問題が解決した状態になるのか不明な状況が続いていた。サウジ側はカタルがとるべき行動は自明であると主張していたものの、6月20日に米国務省報道官が、「サウジ等がカタルへの要求を未だに公にしていないことに当惑している」と述べ、断交の理由はカタルのテロ支援疑惑ではなく、GCC諸国間の長年の不満に基づくものではないかと疑問を呈していた。これに関し、ティラーソン米国務長官は21日に、サウジ等の4カ国がカタルへの要求リストを準備していると米国が理解していることを明らかにし、要求が合理的で対応可能なものであることを望むとの声明を発出していた。

 要求リストについては、APによる第一報が出て6時間以上が経過した現時点においても、サウジ政府、カタル政府のいずれも公式の見解を表明していない。しかし、今回の国交断絶において、それぞれの政府の事実上の見解を発表し続けているAl-ArabiyaとAl-JazeeraがAPの報道をキャリーするかたちで本件について報じており、要求内容については信憑性が高いと見られる。

 13項目の要求はカタル側にとって受け入れ難い内容が多く含まれており、リストの提出によって事態が一挙に解決に向かうと期待することはできない。要求内容の中には、そもそもカタルが実行していないと否定しているもの(テロ組織への支援やリヤード合意の不履行など)もあるが、国策として進めてきたトルコ軍基地の受け入れやAl-Jazeeraによる報道姿勢については、カタルがサウジ等の要請に対応する可能性はほとんどないだろう。

 他方で、要求リストには米国や国際社会から指定されているテロリストについても対処するよう言及しており、この点では欧米諸国もカタル側に圧力をかけてくることが予想される。カタルは組織に対する支援は否定しながらも、人道上の観点から諸外国が問題視する人物を受け入れてきた過去があり、ときにはその人脈を通じてテロ組織との停戦交渉や人質解放交渉などを行ってきたとされている。断交した直後、フランスなどがカタルに対し隣国の懸念に対応するよう呼びかける声明を発出したのは、こうした背景に基づいている。

 10日以内にカタル側が提示された要求の全てを受け入れることは想像し難いため、サウジ側がどこまで妥協する用意があるかが焦点となるだろう。今回、サウジやUAEのメディアではなくAPを通じて要求リストが報じられたのは、交渉の過程を公の場で明らかにするつもりはないという政府の意図が反映されているように思われる。過去のGCC諸国間の紛争についても、何が議論され具体的にどのような結論に至ったかはほとんど明らかにされてこなかったが、今回もそのようなかたちで決着する可能性が高い。事態の解決には時間がかかると見られるが、交渉が開始されたことによって関係国間の緊張が一時的に緩和するということはありうる。

 

・カタル断交に関連する中東かわら版は以下を参照

「カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾」『中東かわら版』No.38(2017年5月25日)

「カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶」『中東かわら版』No.45(2017年6月5日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する周辺国の動き」『中東かわら版』No.47(2017年6月6日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する域外大国の動き」『中東かわら版』No.49(2017年6月7日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶を巡る情勢」『中東かわら版』No.51(2017年6月8日)

「カタル:経済封鎖の一部緩和」『中東かわら版』No.55(2017年6月16日)

(研究員 村上 拓哉)

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